第2話 妄想娘、心を読まれる

 それはミノリから、レキとの話を聞いた数日後の事だった。

 授業を終えたチマは、クラブに向かうはずのミノリに呼び止められた。学園の回廊で、周囲に人はいない。


「チマ、協力してほしいの」


 両手を彼女に握られながら、チマは大きな双眸を見はった。


「な、なに?」

 

 切羽詰まったような表情のミノリにチマは問い返す。


「デートして頂戴」

「へ?」

 

 あたしとならただのお出かけでしょ、と言いかけるチマにミノリは、


「わたし、レキ君と都立庭園に行くことになったの」

「おめでと」

「じゃなくて、一緒に来てくれない?」

「二人だけだと、都合が悪いの?」

 

 ミノリはおかしなことを言う。

 せっかくのデートにチマを連れて行くなんて、お邪魔虫でしかないだろうに。


「喧嘩でもしたの?」

「そうじゃないわ。ただ、クロアーフロトにわたしには彼がいるって言っちゃったんだけど、都立庭園には学園の子たちも来るみたいだしっ、だからっ」

「ちょっ、ミノリ。落ち着いて。それ、誰?」


 何やらテンパっているらしいミノリは早口で捲し立てる。

 聞きなれない名に眉を顰めながら、チマはミノリを制した。


「クロアーフロトは、一級下の男子なの。・・・何年か前に彼が転んだ時、怪我の手当てをわたしがしたらしいけど、全く覚えてなくて・・・」

 

 どうやらその少年に告白されたらしい。


「ミノリ、大モテだね」


 一月の間に二人に求愛されるとは、と感嘆するチマだけれどミノリはそんな彼女を軽く睨む。


「ごめん」

「・・・断ったけど、どうしてか問いただされて・・・仕方なく、恋人がいるって言ったんだけど」


 それでも信用しないのだという。


「しつこい子だね」

「レキ君に相談したら、彼に会うって言って」

 

 学園内じゃまずいということで、都立庭園であうことにしたらしい。次の休日、そこへ行くという生徒たちがいるようなのだ。そこでレキはミノリに提案したらしい。


「ダブルデート?」

「当日、レキ君は友達を連れてきてくれるの。クロアーフロトにはそう見えるようにして、万が一他の生徒に見られててもチマとその友達が居れば特定の関係だとは見えないだろうって」

「まあ、その盲目君も合わせれば五人で遊びに来たみたいに見えるかもね」

 

 ふむ、と頷くとチマは胸を叩いた。


「任せなさい!他ならぬミノリのためだもん!」


 かくして訪れた休日。

 現地へ向かう前に、四人は打ち合わせのため都立庭園にほど近い噴水広場に集合する約束となっていた。

 早朝―――約束の時間より少し早く到着したチマたちは、レキとその友人を待つ。


「ね、ミノリはクラウ君の友達って人に会ったことあるの?」

「実はね、誰を連れてくるかは聞いてないの」

「そうなんだ」


 あんまり話しにくい人じゃないといいけどと内心でチマは思う。人見知りをするわけではないが、出来れば友人の振りが苦も無くできる相手だといい。

 やがて、待ち合わせの時間になるころ、


「ミノリ」


 張りのある青年の声がした。

 笑顔で振り返るミノリに倣い、そちらを見たチマは息を呑んだ。

 青みがかった黒髪の長身の男子―――その少し後ろに白金の髪をした青年がいる。

 彼らが近づいてくるまで、チマは自身の目を疑っていた。


(どうして、彼がここにいるの?)


 呼吸が震える。

 夢か幻?

 けれど、あの人間離れした清廉な美貌、切れ長の翡翠眼、すらりと均整のとれた体躯は間違いなくルカディア=イエメイだ。


 いつもは学園の制服姿の二人も、今日は私服だ。


「おはよう、早いな」

「おはよう、ほんの少しだけね」


 笑顔で挨拶を交わしたミノリとレキはチマに向き直り、


「えっと、初めまして。俺はレキ=クラウ。ミノリから聞いてると思うけど、今日はよろしく」

「こちらこそ!チマ=ルイジュです」


 噂の男前が人好きしそうな笑顔で話しかけてきて、チマは慌てて頭を下げた。


(こ、これはかなり感じの良さそうな人だ)


 そう感じながら、意識は自然と、レキの後ろにいる彼へと向かってしまう。


「で、こっちに居るのがイエメイ。今回の協力者」


 レキの紹介に、ルカディアは噴水から視線を外し、チマたちを見た。


 翡翠色の澄んだ双眸が向けられて、心臓がどき、と跳ねる。


「ルカディア=イエメイです・・・・よろしく」

 

 初めて聞いた彼の声は、想像していたよりも低くて甘い。

 声もなくチマは小刻みに震えた。


(ふおああ!生・ルカ君だああああっ)


「初めまして。今日は、ごめんなさい、その」


 ミノリが何か言いかけると、レキが間に入る。


「ああ、そういうのはいいよ。コイツ、俺への借りを返すために来ただけだから」


 善意とかじゃないし、と言う彼をルカディアはジロ、と横目で見ているが何も言わない。


「レキの彼女は、君?」

「ええ。ミノリ=リュイラです。この子は友達の―――」

「え、えと、チマです!チマ=ルイジュ」


 勢い込んで名乗るチマを、ちらと見る翡翠の目。


「うん。さっき、聞いてた」

「―――!」


 覚えてくれた、とそんなことで感激してしまう。

 感じ入るチマだが、ルカディアは興味の薄い視線を向け、すぐ逸らした。


「例の分からず屋は、この半刻後、都立公園に来る。俺たちはダブルデート中って、設定だから」

「けど、あんまり親しくしない方がいいんだ?」


 ルカディアが口を挟む。


「学園の誰かがその場にいて目撃しても、俺やお前に特定の相手が居るとは思わない程度の距離がいい」

「―――分かった」


 淡々と請け負うと、ルカディアはチマの左隣りに立つ。レキより少し低いが、彼も百八十くらいは背がありそうだ。


「それじゃ、そろそろ行こうか」


 公園から見える時計塔を見やり、レキが促した。


 都立庭園まではそう遠くないので、四人は歩き始めた。

 隣りを歩くルカディアの横顔に、心臓は踊りっぱなしだ。

 いつも遠くから見つめるか、妄想の世界でしか拝めない美貌を食い入るように見つめてしまう。


「―――何か付いてる?」


 こちらを見ずに彼が声をかけてきた。


「ふえ?ううん!どうして?」

「あんまり凝視するから」


 不愉快にさせたろうかと不安になるが、彼の表情は変わっておらず、そこからは何も読み取れない。

 少し迷ったけれど、チマは思い切って打ち明けた。


「あたしっ、あたしね、ずっときみとお話したかったの!」

「・・・ぼくと?」


 薄い反応を返す彼に、力いっぱい頷いた。


「ふぅん?」


 そこで初めてルカディアはチマの方を見、微笑んで小首を傾ける。それは、ごっくんものだった。


(うわー。うわー。ぎゅってしたい!はぐしてチユーして、あたしのっ!て独占したい!!)

 

強烈な欲望が沸き起こった瞬間、彼が噴出したのだ。

 驚くチマに涙目で彼は言った。


「いいよ」

「?????」


 笑われた理由が分からず、チマは首を捻る。


(えっとお話ししてもいいってこと?)


 ルカディアは、先ほどとはうって変り、何だか楽しげな横顔となっていた。

 何が彼のお気に召したのかわからなかったが、初めて見た笑顔にチマの心は浮足立った。


「イエメイ君は、特別生だよね。特権クラス生ってだけじゃなくて」

「うん」

「それって、どう違う―――」

「ルカでいいよ」

「え」


 質問の答えと違うことを言い、ルカディアはチマに笑いかけた。


「長いから言いにくいでしょ。そう呼んで」


 チマは目を見張り、いいのぉっと輝かせた。


「ル、ルカ君・・・」


 じーん、と感じ入るチマは、結局その違いについては聞けずじまいだと気付かない。

 切れ長目を細め、ルカディアは笑みを深めた。


都立庭園はその広大さと、世界各地の珍しい植物を集めた温室、野鳥も飼育された、国の自慢の庭園である。

 約束の時間を迎え、くだんの少年は現れた。

 彼は、ミノリからレキを紹介されると驚愕の表情となっていた。

 架空の存在だと思っていた恋人が、男らしい容貌のレキだったため、酷く驚いていた。


「悪いけど、そういうことで諦めてくれ」


 レキに念押しされ、少年は渋々事実を認め、失意の態で先に帰って行った。


「うまくいったみたいだね」

 

 そういうチマにミノリは頷くが、浮かない顔をしている。


「ちょっと可哀想とか、思っちゃだめだよ」

「あーそれは止してくれよ。あの手の奴は、思い込み激しいから。諦めてくれなくなる」


 チマに続いてレキにもそう言われ、ミノリは「そ、そんな風に思ってないわ」と否定はするが図星だったのか、歯切れが悪い。

 そんな三人を余所に、時計塔を見やったルカディアが双眸を細めた。


「そろそろぼくも行くよ」

「えっ」


 もう?と驚くチマ。


「おう。悪かったな、イエメイ」


 礼を口にするレキに、片手を上げたルカディアは消沈の表情となるチマに目を向けた。遅れてそれに気づいたチマに彼は話しかけてくる。


「きみも来る?」

「!」

「え!?」


 突然の誘いに驚くチマとミノリだ。


「恋人の中に一人っていうのも、何だか居心地わるそうだし。学園手前までは送れるけど?」

「わ、わたし達は別に」

 

 ミノリが否定する前に、チマは勢いよく頷いた。


「うん。あたし、帰るよ」


 彼の言い分は尤もだし、それに、とチマは思う。


(ルカ君と、もっと一緒に居たい)

 

 ミノリたちと別れた二人は学園行きの馬車乗り場へと歩く。

 ルカディアとこうして並んで歩けるとは、夢にも思わなかった。


(あたし今、幸せだ)


 じーんと、感じ入るチマは、再び、妄想の世界へと思いを馳せる。


 肩を並べて歩く二人、場所は花咲き乱れる草原、小石に躓くチマを支えきれずにルカディアは若草の上にチマともども倒れこむ。その白金の髪が草の緑に映え、眩く輝く。光に彩られているその綺麗な顔を見つめ、何故か手にしている、緑の蔓でチマは彼の両手を上に縛り上げ―――。


  想像が膨れ上がった所で、ぷはっと吹き出す音がして、チマは我に返った。

 隣りではふるふると肩を震わせるルカディアの姿がある。


「えっと・・・ルカ君?」


 一体どうしたのかと、問いかけると、彼は涙を浮かべた半笑いで手を振った。


「きみって、本当に―――くくっ」

「????」


 チマは笑われるようなヘマでもしたかと首を捻るが思い当たる節はない。

 やっと、笑いの衝動をやり過ごしたらしい彼は、深い息を吐いた。


「は―――・・・。きみ、チマって言ったね。何学年?」

「・・・ルカ君と同じ年だよ」


 そう言うと彼はやや目を見張った。


「同じ?十七?」

「・・・もっと下に見える?」

「正直、三つくらいは下かと」

「いいの。いつもよく言われるから」


 童顔なのは自覚している。


「小さくてかわいいからかもね」

「!」


 見上げれば、微笑むルカディアの顔があり、チマは喜びに頬が染まるのを感じた。


(かわいいって、言ってくれた!)


 今日はなんて素敵な日なのだろう!!

 馬車に乗り途中でルカディアが停車場で降りた後も、チマは夢見心地だった。

 が、翌日、珍しくミノリと二人だけの屋上ランチタイムで上の空だったチマはきょとんとして聞き返した。


「今、なんて言った?」

「だから、イエメイ君の前であんまり変なこと考えちゃダメだから。レキ君が言ってたんだけどあの人、他人の頭の中が透けて見えるんだって。ああ、といっても普段は制御するプロテクターを付けてるらしいけど、あんまり強い感情だと感知しちゃうんだって」

「へえ、そうなんだ」


 何気なく聞いた彼の情報。

 特別生が特殊能力者だという説明は右から左へと耳を通過していく。


「それだけ?」

「へ?」

「だって、さ・・・人に考えが筒抜けなんて怖くない?」

「んん?でも、ルカくんはルカくんだし」


 気になんないよーと笑うチマを心配そうに見るミノリだ。


「・・・でも、あなたの妄想度って半端じゃないのに」

「何か言った?」

 

 能天気なチマにミノリは大丈夫かなと呟いた。

 チマはその時すっかり忘れていた。ルカディアが吹き出す様に笑った事を。

 彼女がその意味を知るのは3日後だった。

 

 その日の最終授業が終了したあとのこと。

 教室から出たチマとミノリの前にルカディアが現れたのだ。周囲の猛烈な視線の中、彼は微笑んだ。

「こんにちは」

「!ル、ルカく・・・じゃなくて、イエメイ君」


  破顔して思わず名前を口にしかけたチマは、慌てて言い直す。衆人の中で馴れ馴れしくしようものなら、明日から身の危険を心配しなければならない。


「えっと、何か御用ですか?」


 ミノリもそれを危惧してか、都立庭園での協力への礼も口にしない。

 彼は愛想のいい笑顔を向ける。


「ん、きみを迎えに」


 視線はチマに向いていた。


「・・・へ?」


 チマは固まった。

 彼の言葉を頭の中で反芻し、素っ頓狂な声を上げてしまう。。


「あ、あたしですか!?」

「そうだよ」


 可笑しそうに彼は笑う。

 夢でも見ているのだろうかとチマはほっぺたをつまんだ。


「あ痛っ」

「立ったまま夢はみれないでしょ」

「あ、そうだよね」


 チマはぽんと手を打ち、ん?と首を傾けた。


(あたし、今、口に出しましたか?)


「顔にすぐ出るみたいだよ。きみ」

「ああ、それで!よく言われるのー」


 へらっと笑うチマに彼もふふっと笑う。


「じゃあ、彼女借りていくよ?」


 傍らのミノリにそう言い、チマの手を引く。


「ちょっと、イエメイ君!?」


 ミノリが制止の声をあげるけれど、ルカディアはそのままチマを連れて歩き出す。


「行こ」

「え?ど、どこに?」

「ここより、相応しい所」


 遠巻きに成り行きを見ていたらしい生徒たちがざわめく。悲鳴じみた声が上がったのも気のせいじゃないはずだ。

 分けが分からず連れて行かれるままに歩きながら、我知らず、チマの鼻息は荒くなる。


(相応しいところ?な、何だかとっても、魅惑的な響きなんですけど!)


 薔薇の生い茂る場所でしどけなく制服を肌蹴たルカディアの上にチマが圧し掛かり、皮ベルトで彼の腕を縛り上げる。とまどう彼にチマが襲い掛かる・・・。


(なーんて!なーんて!えへへへ)

 そこまで想像が膨らんだ頃、彼の足が止まった。我に返ったチマが目にしたのは、お洒落な白い建物。小さく作りこんだ庭には可憐な花が咲き、オープンテラスには、若いお客が目立つ。


(わああ、可愛いお店)


「ここ、美味しい紅茶をだしてくれるんだよ」

 

促されるまま店内に入る。明るい店内は清潔感があって、カントリー調の内装になっている。


(ふあーこんな所にこんなお店があったんだ)


 きょろきょろ見回すチマを連れ、ルカディアは席に着く。窓際の席で、微かに開かれた窓から吹く風で白いカーテンがふわっと宙に浮く。


「あ、の・・・どうして、ここに?」


 上目遣いで見ると、彼は微笑む。


「話、したいってきみが言ったんだよ」


 チマは、上気し緩む顔を抑えきれない。


「ぼくも、きみのこと知りたいしね」

「!!!」


 奇声を上げそうになるのをチマは我慢した。


「ぜひっ!何なりと訊いてくださいっ!」

 

力いっぱい胸を叩いた為に激しく咳き込むと、彼は立ち上がり、チマの背を撫でてくれる。


「大丈夫?」

「は、はひぃ」


 涙目で頷くと椅子に座り直す彼は苦笑する。


「慌てなくていいよ。これから幾らだって時間はあるんだし」

「・・・え」


 顔を上げ、正面に座る彼を見る。

 幻想的と評される翡翠の色をした双眸が穏やかに自分を映している。彼は片手で頬杖を付き、言った。


「きみに売約されたから」 

「・・・・・・」


 頭の中にぺんと、売約済みと書いた紙を彼の額に貼る図が浮かんだ。


「あたし・・・?」

「そう。なかなか刺激的だね」


 すっと、ルカディアの長い指が伸びてチマの額を指す。


「出会って間もない子からあんなに直接的な感情向けられたの初めてだよ」


 腑におちない彼の発言の数々。

 確か以前にも、同じような謎が・・・・。

チマの頭の中でさまざまな情報が飛び交う。その中で、友人が言っていた言葉が脳裏を掠めた。

 頭の中が透けている・・・・。

 んん?

『いいよ』

 笑うルカディアの姿。

 もっと遡って・・・・・。

 そこまで思い返した時、チマの中である推察が出来上がった。

―――ぎゅってしたい!チユーしてあたしのって独占したーい!

 過去の自分の欲望の声が脳裏を駆け巡った。


「!!!!!」


 ざあっ、と血の気が引くチマに彼は微笑んだ。


「き・・・聞こえたんですか。あたしの、あれ」

「うん、はっきりと」


 肯定にチマは椅子からずり落ちそうになる。

 ミノリの忠告が今になって重要な助言だったのだと思い知る。


「他にもきみ、色々考えてたよね?」


(い・・・幾度となく)


「レキ経由でリュイラさんからぼくの能力のこと、聞いてるかと思ってたんだけど、そうじゃないのかな。さっきも、なかなか凄い想像してたみたいだし」


 紅茶を優雅に味わいながら、ルカディアはチマを追い詰めていく。


「・・・ごめ・・・あた・・・」


 何と言っていいものやら混乱する中で言葉もままならない。

 相手からの軽蔑を恐れて涙目でぷるぷる震えるチマに、ルカディアは苦笑する。


「何もそこまで落ち込まなくても。ぼくは、きみのこと気に入っちゃたけど?」

「・・・・へ・・・」


 幻聴だろうか。今、気に入ったと言った?


「うん。かわいいから」


 チマは困惑の表情で、ルカディアを見返す。

 あんな妄想をしていると知って、この反応?


「かわいいし、面白いし、それに」


 ルカディアは瞳が隠れるほど笑んだ。


「本当に好きでいてくれてるのが、伝わってきたから」


 双眸を大きく見張って、チマは息を詰めた。

 綺麗なだけの笑顔じゃなかった。胸の奥がじんわりあったかくなるような優しい表情なのだ。 


(神様、これは本当に現実でしょうか?)


 言葉をなくすチマに、ルカディアは改めて申し出た。


「ぼくと付き合おうよ」 


 チマはこの日幸福で卒倒するかと思った。

 憧れ続けて早数年。

 身長百五十センチ、本年十七歳になったばかりだが実際には十四、五にしか見えない童顔の自分が、彼からまさか付き合おうだなんて言われるとはっ。


「はい・・・!喜んでっ」


 鼻息も荒く、勢い込んでチマは返事をした。

 清廉な容貌に浮かぶ、柔らかな微笑みの裏に隠された彼の顔を知らずに。

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ジェイド国物語 矢車草 @kiro

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