第3話 母、BLCDを知る。

 『グラビテーション』を全て読み終えた母には、何をおススメするべきか……。

 2話にも書いたように、オリジナルBL作品はあまり持っていなかった私は、母も知るアニメの二次創作同人誌を渡すか、もう一作品を渡すかで悩んでいた。

 その作品は『お金がないっ』という、篠崎一夜先生の描くBL小説。親戚の借金のカタにオークションで売られた大学生(受)が、金融業を営む強面の男(攻)に買われる……というボーイズラブの教科書のような作品なのだが、小説とはいえいかんせん濡れ場シーンが過激なので、実の母に渡すには抵抗があった。

 そんな時、いつも小説やドラマCDの貸し借りをしていた親友が思わぬアドバイスをくれた。(彼女だけには、母の現状を伝えていた)

「『お金がないっ』のドラマCD貸せば~~?」

 今でも若干後悔している。

 なんで私はここで「それいいね!」と思ってしまったのか。

 ドラマCDなんてレベルの高いものをあっさり母が受け入れるわけないと、濡れ場シーンの過激さは文字より音声の方が上じゃないかと、思わなかったのか。




 結論から言うと、その後母はBLCDにドハマりした。

 私が貸すCD、貸すCD全てMDにダビング。自分専用のMDプレイヤーを購入し、家事の最中や就寝前にいつも聞いていた。

 驚いたのは、母はそのCDを仲良しの親友(45歳・主婦)にも貸していたことだ。聞いた瞬間「やめてお母さん! 友達なくしちゃう‼」と心で叫んだのだが、どうやら親友さんもハマり、早く次を貸して欲しいと催促を受けるようになった。

 ちなみにその方は私の同級生男子のお母様でもあったので、高校で息子に会うたび「うちの母が君のお母さんを腐った道に引きずり込んで……ごめんよ……」と心の声で謝罪した。

 しかしCDを貸すといっても高校生の小遣いでは買える量にも限度がある。私と親友二人分の手持ちでは満足できなくなった母は、漫画だけでなくCDも自分で購入するようになった。

 某シリーズの全巻セットを購入して「大人買いしちゃった♪」と笑う姿は今でも記憶に新しい。これが本当の大人買い……と深く納得したのを覚えている。

 だんだんと耳が肥え始めた母は、声優指定でCDを選ぶようになった。CDが良ければ原作を買う、というパターン。小説だろうと漫画だろうと何冊出ていようと関係ない。

 「耳が孕む」という単語を母から聞いたとき、初めて後悔した。お父さんごめんなさい。娘はあなたの妻をいけない方向に導いてしまいました。

 母は私の心中を察することなく「これ、もりもり(※声優さんのあだ名)が出てるから買わなくちゃ~!」と呑気に盛り上がっている。

 BL沼から声優沼へと、引き返せない道を喜び勇んで駆けていく母を止める術はもはやなかった。

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