第2話 母、BL漫画にハマる。
母から「あなたの持ってるBL漫画読んじゃった☆」と告白された娘は、狂喜した。
母親が自分の趣味に理解を示し、なおかつ共感してくれる。こんなチャンス、10回生まれ変わったとして、1回あるかどうかだ。オタクで腐女子な思春期の女子として、このチャンスを逃すわけにはいかない。
そそくさと玄関から自室へと母を誘導し、階段を上りながらさりげなく聞いてみる。
「グラビテーション、全部読んだ?」
「それがまだ2巻までしか読んでないの」
「あ、じゃあ続き貸すよ! めっちゃ面白いから‼ あと他にもおススメのがあるから、グラビ読んだらそれも貸すね」
内容がどうとか、BLが何だとか、そういう話は一切しなかった。この時点で既に暗黙の了解ができていたことを思うと、母の腐女子としての素質はなかなかのものだったのだろう。
私は母に本棚のBLコーナーを指し示し、好きな本を読んで良いよ、と伝えた。
嬉しそうに頷く母を見ながら、本当にえぐい奴は絶対見つからないようにしよう……と心に誓う。
それから一週間。私も母もあの日のことが夢だったかのように、一切漫画の話はしなかった。しかし夢ではない証拠に、母所有の本棚に見慣れない漫画が増えていた。緑の背表紙に白字のタイトル。漫画の文庫版と思われる分厚い背表紙に見えた文字は、『風と木の詩』。
えーーー、そこーーー、そこいくーーー?
知らない人のために説明すると、『風と木の詩』は『地球へ…』などで有名な竹宮惠子先生が1976年から連載を始めた少女漫画で、フランスの寄宿舎で繰り広げられる少年たちの切ない愛や嫉妬が描かれている。
と、簡単に説明できるような内容ではないのでぜひとも一度読んで欲しい。ちなみに私はこの時、母の本棚からこっそり引っ張り出して全巻読みました。
少年誌やその同人誌ばかり読んでいて、商業BLは『グラビテーション』と『お金がないっ』(※この作品については次の話で後述します)しか知らなかった当時の私にとって、こんな古くから少年愛を描いた作品があるなんて、と逆に衝撃を受けた作品である。
母はもともと少女漫画が好きで『王家の紋章』(著:細川智栄子あんど芙〜みん)や
1976年といえば、母はおそらく高校生か大学生。『風と木の詩』という作品がすごいらしいとの噂を聞きながらも、恥ずかしくて手に取ることができなかった。その時の記憶が今になって蘇り、長年の想いを叶えた……とかだろうかと、勝手に妄想している。
そんなこんなで私がおススメしなくても、自ら書籍を収集し始めた母の本棚には、着々と私も知らないBL漫画が増えていっている。
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