第2話 帰郷
ただいま。そう一言少し元気な口調な家の中へ響く。
無理しているわけじゃない、旅の疲れを隠しているわけでもない。
ただ明るく振舞いたかった。
「おかえり」
思っていた声よりは大分年老いた声をしていた。家に帰れば母親が待っていると思っていた俺はきっとホームドラマの見すぎた。
リビングには腰を小さく丸めていた祖母の姿がった。
とてもとても優しい眼差しで俺を見ている。東京ではこんな優しい眼差しで誰かに見られたことはあっただろろうか?おそらく一人を除いて他はない。
弓子「お母さんは仕事で遅れるって」
病院で癌の手術を受けてから仕事に復帰していたことを忘れていた。
正確には復帰することは望んでいなかった。ただ家庭的な事情で働かなければならない母親に、金銭的な援助をしてやれない自分を誤魔化したかっただけだ。
人は息を吐くように嘘をつく。望まない記憶は頭の深淵にしまっておくことだってできる。だがこの状況では記憶が深淵から顔を覗かせる。
深淵「母親は苦しい体に鞭打って仕事をしているぞ?」
そう俺はここを出ていたった三年前と何も変わっちゃいない。具体的何か成長したわけでもなく、ただ時間を無駄にし、宝くじの列に並ぶ老人たちと何ら変わりのない人生だ。むしろ列にならんで買うだけ老人たちのほうが幾分マシにさえ思える。
祖母「ご飯にしましょう」
質素な料理だった。とても久しく会っていない孫のための料理とは到底思えない。
白米に味噌汁、ほうれん草のおひたしに、鮭の塩焼き、パックのままの納豆。
夕食なのか朝食なのかさえわからない。
???「何か言いたげな顔してるぞ」
振り返るの弟の姿があった。すぐに察していたんだろう。
料理への不満がきっと顔に出ていたのかもしれない。
祖母「さあ食べましょう」
出張でいない父親、仕事で遅くなる母親
その代わりに夕食にとても健康的な朝飯を振舞う祖母。
良くも悪くも変わり果てた妹に、全て察しがついていると言わんばかりの弟。
そして三年前から何も変わっていないであろう俺自身。
一同「いただきます」
両親のいない食卓はとても静かだった。
たられば @kei0905
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