第4話 5年前 その2

  * 五年前


 その日から、わたしと千佳ちゃんは友達になった。

 わたしたちは、学校から帰ると、よくお互いの家へ行き来するようになった。

 たいていは、面白かった本を持ち寄って貸し合う程度の、他愛のない交流だった。けれど、友達らしい友達を持ったことのないわたしにとって、千佳ちゃんとの毎日は、すべてが新鮮だった。

 千佳ちゃんは、わたしが、たどたどしく読んだ本の説明をするのを、嫌な顔一つせずに楽しそうに聞いてくれた。それから、千佳ちゃんが貸してくれる本は、例外なくどれもとても面白いものばかりだった。

 わたしたちは、本だけでなく、音楽やテレビ番組などの趣味もよく合った。だから、時間がたつのを忘れて話し込んでしまうこともしばしばだった。

 美人で明朗な千佳ちゃんを家に連れてくると、新しい父や母もとても喜んでくれた。それで、特にわたしと多く会話してくれるようになったわけではないけれど、屈託のない笑顔の両親を見ていると、なんだか温かい気分になった。

 忘れていた、家族の空気というものを思い出せた。

 ただ、学校では、あまり千佳ちゃんと話したりすることは多くなかった。

 千佳ちゃんは千佳ちゃんで、もともと仲のよいグループがあったし、その中にはわたしの苦手な人もいた。だから、無理にわたしをクラスに溶け込ませようとしない彼女の姿勢はありがたかった。

 友達は、千佳ちゃん一人で充分だと思った。

 それからも、わたしはクラスの中でたびたび孤立し、時にはひどいいじめを受けることもあった。机の中のノートが破かれていたり、体操着をどこかに隠されてしまったり……

 だが、これは仕方がないことだった。わたしが、きちんと自分の意見を言えないのが悪いのだから。

 千佳ちゃんは、そんなわたしを悲しそうな目で見るだけで、助けてくれたりはしなかった。

 それで正解だと思う。

 わたしのせいで、千佳ちゃんまでいじめられるようなことになってしまっては、大変だ。だから、学校では、なるべくわたしとかかわらないでいてくれた方が、ありがたかった。

 学校から帰って、二人だけになると、千佳ちゃんはとても優しかった。

 わたしは、それで満足だった。

 ただ……、千佳ちゃんは、どこか遠くを見るようにぼんやりすることが多くなった。優しい笑顔で話を聞いてくれている時も、どこか上の空という様子に見えることがあった。

 そして……

 千佳ちゃんが、わたしの前に姿を見せないようになるまで、そう長い時間はかからなかった。

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