あなたの吐息は甘く切なく

最終話 愛憎はコインの裏表

　あの日奴に棄（す）てられた俺は、排水溝（じごく）の底で力をつけ、ついに地上まで這い上がった。

　今や俺は炭酸飲料の領域を超え、宇宙に存在するあらゆる酸の中で最強の強酸となった。

　すべては奴に復讐するためだ。

　俺の心と身体を弄んだ奴を、この身の酸で苦しめて、骨の髄まで溶かし尽くすために。

　奴の家の床を這い、奴を探して進んでいく。

　俺の通ったあとの床が、煙を立てて溶けていく。

　俺の前に道は無い。俺の通った後に道ができる。

　あの日、あのとき、天に昇る道に見えた、あのまがるストローも、所詮は裏切りの予兆、地獄への道標でしかなかった。

　ならば今度は俺が奴に、地獄への片道切符をくれてやるのだ。

　今に見ていろ、クソアマ。

　過去の悪魔の所業の報いを。

　飲み物を粗末にした罰を。

　その身でしかと味わうがよい。

【あなたの吐息は甘くて切なく】

完