第15話 怪談!学校の白い少女【オランダデルフト】

転校先の小学校に娘を連れて行ったときのことだ。


今年から夫がヨーロッパ赴任になった。

日本人学校を考えていたのだが、

娘が地元の近所の子供達とすっかり仲良くなったので、

近くの地元の小学校に通わせることにきめた。


1800年代の建物は、

アガサ・クリスティの小説にでてきそうな

ネオ・クラッシク様式で、

今は古色蒼然としたレンガ造りの建物が

ひっそりと建っている。


娘の教室は2階にあった。


階下にはトイレがあった。

そのそばに、

黄ばんだ白いシミーズをきた

ハシバミ色の長い髪の少女が寂しそうにうなだれていた。

背筋にゾッーっと冷気が走るのをかんじた。


思わず、娘の手を強く握った。


「おかあさん。あの子、おばけよ」

娘はケロリとした口調でいった。


帰り道に娘は、

学校にでるおばけの女の子のことを話し始めた。

「寂しいんだって。

一人ぼっちなんだって。

お友達を探しているんだって」


娘は、なおも平然と淡々とした口調で続ける。


「でも、いってあげたの。

『あなたは、もう死んでいるの。

ここにきちゃダメ。おうちはどこ?

お父さんとお母さんが探していたよ。

もう帰りなさい』って。

もうおうちに帰ったかも」


娘の話によると、学校のおばけの女の子は、

昔、小学校の建物の中に、

病気になって患者として住んでいたそうだ。


彼女の部屋が、ちょうど階下のトイレだったという。

自分がとっくに死んだことを忘れてしまって、

家族やお友達や看護婦さんを探して、

ときどきでてくるのだそうだ。


その後、数日たったが

娘のいうことがどうも気になって、

地元の歴史図書館で調べてみた。


確かにこの小学校の建物は、

もともとカソリック教会の寄付で隔離精神病棟として

建てられたものであった。


当時、精神病というのは、

伝染性の病気と考えられていたので、

一度入院すると、

病院で一生を終えたのだそうだ。


ロボトミーという、脳の一部を切開する、

現在では禁止されている

非人間的な手術も施行されていたらしい。


<おしまい>

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世界物怪・忌憚録 久喜尼子 @Amariko

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