第14話 怪談!トングレンの幽霊屋敷

昨年の夏休みに経験した、ベルギートングレンの幽霊屋敷。


ベルギートングレンは、最古の町の一つとして有名である。

町の中心マルクト広場には、

紀元前54年にローマ帝国軍を打ち負かした英雄像が建てられている。

町のいたるところに古代ローマの遺跡がある。


トングレンで、夏休みに童話にでてきそうな小さな別荘を借りた。

一階が居間とキッチン、ダイニング。二階がシャワーと寝室だった。

庭にはラズベリーとプラムがたわわに実り、

好きなだけ採ってよい。

子供達は、大喜びとれたての新鮮な果実を堪能した。


この別荘の管理人は、

りんご農家で、手作りのアップルジャム、

アップルシロップ、

そしてアップル酒をもってきてくれた。


「あれらは・・・どうかね・・・」

以前、ヒッピーだったという管理人は、

黄ばんだ白髪をダラリと長く垂らし、

右目が白濁し、歯は朽ちてなくなっていた。

どこか怯えるように、震える声で呟いた。

そして、シワだらけの干からびた黄色い手で居間を指さした。


居間は、18世紀のビクトリア朝の家具で調えられていた。

その家具をかつて愛でた故人の写真が、

隙間なくズラリとかけられていた。


なんのことだろうか・・・

そのときは、何も気にせず

気持ちの悪い写真をみていた。


その夜のことだった。


「お母さん!

居間におばけがいる!

いっぱい、

いっぱいおばけがいる!」

子供達が泣きながら、

私のベッドにやってきた。


確かに、真夏だというのに

異様な冷気が一階の居間に漂う。

霧がかかったような靄につつまれる居間。


家中がピシッ、ピシッときしむ不思議な音。


何やら背中につきささるような痛い視線を、

ずっとかんじる。


私は、硬直しながらも、ゆっくりと振り返った。

壁にズラリとかかげられて

かつて裕福だったにちがいない故人の写真。

目を閉じていたはずの写真の人物。

しかし、カッと目を見開き、全員私をみていたのだった。


次の朝、家主に事情を話してチェックアウトした。

子供達をしっかり抱きしめながら。

近くのカフェに立ち寄って、昨夜の別荘の怪奇現象を話した。

地元では有名な「ホーンティッドハウス(幽霊屋敷)」だという。


<おしまい>

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