新しい命
新しい命
平成十六年夏、我が家にやってきた新しい命のエネルギーは、一気に春を齎せた。やってきた子はハイテンションで頭の良い男の子。私はその可愛さに目を細め、毎日が幸せだった。ただ一つ影を感じていたのはこの子は私の遺伝子を引き継いでいないから可愛いという事。そんな私の心は今考えると歪んでいたのだと思う。
先代の犬たちがシニアになって静かに暮らしている間にペットの世界も様変わりしていた。
お出かけ、旅行、オフ会、ドッグラン。小型犬は服を着せていても当たり前のようになっていた。私が十九歳の頃からの友人はいつの間にか犬友さんになっていて、
当時私にまだ自動車免許は無く、友人の車に同乗させてもらったり、又、たとえ電車ででも何処へでも我が子を連れて行った。どうしても一緒にメリーゴーランドに乗りたくて、千葉の蘇我のアウトレットまで電車とバスで行ったこともあるくらいだった。
犬のお洋服は可愛いなと思うと結構値が張る。だから私は自分で縫ったものを着せた。日暮里の生地問屋へ行き、昔私がレビューショーで着ていたようなスパンコールの生地とカラフルなフェイクファーでマントを作ったり、
日本人形の生地を扱うお店で買った生地で暴れん坊将軍のような羽織袴を着せて写真を撮り、ブログには甘えん坊将軍と書いてアップロード。それが功を奏してペット雑誌の手作り服特集では、我が子のほんの小さな写真が載り、その記事に私は目を細めた。何だか亡くなった母の気持ちが分かるような気がしていた。
そして、何処にも向けようの無かった私の母性本能は満たされていた。
犬に対しても人に対してもフレンドリーな我が子。どこへ連れて行っても可愛がってもらえた。。。
その子が、一歳半で犬を噛むようになってしまったのです。
犬は言葉のニュアンスを理解できても言葉そのものを理解は出来ません。一度一線を超えた犬。すなわち噛む事を覚えた犬は何事も噛んで解決しようとしてしまう。色んなトレーナーに見て貰って散々言われた言葉です。時にはきつく言われた。「こんな凶暴犬は訓練所にたたき込め。」でも、私は閉口した。この子は凶暴では無い。何度もトレーナーを変えるうちに一人のトレーナーが言った。「僕が見ていられない時は口輪を付ける条件で保育園に通ってください。」と。。
通わせてみると、この子はなおせないと言うのです。「僕は問題行動の犬を直せなかった事が二度ある。それは病気の子です。この子は三頭目で病気ではないかと思う。」でした。しかし、私はそれにも閉口しました。通常の定期健診は熱心にうけていましたし、病気である筈がないと思っていましたから。
うちの子は犬が嫌いで噛んでいるのではない。特に幼馴染みの子に近所で出会っても噛ませる訳にはいかず、ご挨拶させないでいると、悲壮に鳴くのです。その飼い主さんも見ていてかわいそうと言うほどでした。私は、もう一度トレーナーに会い、他犬の胸を借りられないなら、もう一頭迎えたいと相談しました。あまり薦められませんでしたが、どうしてもと言うなら女の子の方が良いかもしれないとギリギリのアドバイスを貰い、下の子を迎えました。上の子の保育園通いも電車で行くのは大変でしたから二頭目を迎える前に私は運転免許も取得しました。
平成十九年一月、我が家にやってきたのは、上の子よりちょっとおバカな女の子。上の子はブラックのトイプードルでした。下の子はホワイトのトイプードル。パピーの頃からお転婆で可愛かった。
幸い二匹の相性は良く、下の子のパピーワクチンと避妊手術も終わり、やっとこれからという時に上の子が病気になり、それを追うように下の子の病気もわかり、二匹共に闘病生活となった時、下の子が処方ミスを受けることになるのです。
まったく、私の人生は本当に落ち着く暇のない人生。そして、この事から出会った獣医師に寄って、振り返る事の出来なかった心の闇との対峙をする事になって行くのです。
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