そしてすべて無くなった



  そしてすべて無くなった


平成二年、私が二十八歳の二月真一さんと結婚。

結婚して割とすぐに夫となった真一さんは働きたくない等と言い出し、その後、本当に仕事を辞めてしまいました。その前から父に相談していましたが、

そんな頃、父が妙な要求を言い出したのです。

父は、私がレビュー小屋で割と頻繁に歌を歌うようになった事。そしてそれ以外のナイトクラブや地方でも仕事として歌を歌いだした事。おそらくそれらがキッカケだったのでしょう。そして当時はスピリチュアルとは言っていなかった精神世界と言うジャンルの本を私にすすめてきたりしていましたが、そういった本の影響もあったと思います。

ママの遺言を全うさせる為にはやりかけた事を途中で中断するようでは、あの世界は生きてはいけない等々いろんな理由、特に夫が働かなくなった事まで関連付けをして、都合勝手な要求をしたのです。

「あなたはママの遺言を忘れたのか?芸能界で生きていく為にはそのくらいさらりとやってのけられないようでどうする。」

要求。。。それは私にとって耐えがたき事。。

父の愛人になれというのです。

そして暴言。。

あの親は何も変わっていなかったのです。


レビュー小屋の仕事は楽しかったですが、三十歳が近づくにつれ、やはりそろそろ「引退。」という文字も近づいていました。その前から私は何とか歌の仕事に結び付けたかったのです。マイナーな場所でもいい。歌える道筋を少しづつ構築し、その合間をアルバイトで埋めてどうにかやっていけそうにも感じていました。

私はもう一度父を無視してやり直したかった。二十九歳で引退を宣言したのは、再び暗雲垂れ込む空気を変えたかったから。

夫はというと、いきなり俺は海の男になると言い出し、月に一~二回、クルーザーを借りて海へ繰りだしてしまうのです。仕事もしていないというのに。。。


平成三年十二月レビュー小屋での最後の公演の千秋楽の三日前、突然物凄い話が舞い込んできました。

その月は男性ダンサー二人と私のトリオのシーンでキャリンホワイトの「ロマンティック」という曲を歌い踊っていたのですが、それをみた方のある芸能プロに企画物のデビューの話があって、「探していたんだよ君たちみたいなの。」ということになった。


私の頭の中ではほぼ一年遊んだ夫。すなわち、お金に困り始めていると言う現実。

これから細々と歌の仕事をするべく準備している職場をどうするか?と言う問題。

「愛人になれ。」と言う父親。

そこに「デビューの話」となると頭の中は散らかり状態になりました。

しかし、この話に乗らない手は無い。

話を聞いてみると、時はリバイバルブームで二十数年前のこの時点から更に遡った昭和の歌謡曲三十曲程の良いとこ取りで一曲にまとめたものがデビュー曲で、既にスポンサーも決まり、レギュラー番組も決まり、衣装コーディネーターや各スタッフなど決まっているのに誰がやるかだけが決まって居ないとか。後日、六本木スタジオに呼ばれ、写真撮りをしたのですが、そのスタッフの人数に驚きました。

私の細々としたスケジュールを管理して貰うつもりだった小さな事務所の社長とは遺恨を残す形となりましたが、契約書を交わした一つの仕事以外、口約束の仕事は全部キャンセルし、どうしても行かねばならなかった北海道の仕事から帰ってきたら正式契約でプロモーシビデオの撮影。と聞かされた予定が、北海道から帰ると浦島太郎現象。デビューの話は影も形も消えて無くなっていました。

聞くと、著作権法が急に厳しくなり、一曲に三十曲分の著作権料が発生する事が判明。スポンサーが全部下りてしまい、企画そのものが無くなったのだとか?

東京に戻ってきた私の現実は、細々とつないだ歌う場所は後釜が正式に決まり、仕事を管理してくれようとしていた事務所には遺恨が残っており戻れない。。すなわち無職。

そして夫である真一さんは屋形船の船長をするから千葉の寮に引っ越すからついてきてくれ!但し犬は飼えないという。。。

結局、真一さんとはとりあえず別居。その後離婚。

オマケにデビュー話から父の要求は鎮静化していたものの、デビュー話が消えた途端、俺の愛人にならないからそういう有り様だ!と猛攻撃を受ける始末。しかも旦那と別れるんなら実家に帰ってこい。そして愛人になれ。佳代さんには親子だからバレない。と言うのです。


別居や、離婚。。女性にとって経済的だけでなく、精神的にも

実家というのは頼りになるのだろうな~と想像しました。

私の場合、帰る実家があるのに帰る訳にはいかない。

何だかやりきれないと思った。


仕事は無いのに引っ越しを余儀なくされ。病院代(皮膚炎)のかかる子含めた先代の二匹を連れて再出発となり、私は再び歌舞伎町の門をくぐりました。

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