除夜の友
除夜の鐘の鳴り始めた大晦日の夜、僕の前に煩悩の化身と名乗る男が現れた。
どうやら僕の煩悩から生まれたらしい。見た目の年齢も僕と同じ十五、六歳ぐらいだ。
自分の煩悩というだけあって、いざ話してみるとこれがおおいに盛り上がった。
ローストビーフが食べてみたいだの、ロボットアニメのプラモデルが欲しいだの、隣のクラスの女子が巨乳だの、下世話な話が弾む弾む。
すっかり意気投合した頃には、気づくと男の下半身が透けていた。
除夜の鐘とともに煩悩も消えるのだという。
そんなのはいやだ。もっとお前と話したい。
百八回目の鐘が鳴った。煩悩の化身は消えていく。
お前と友達になりたいんだと僕は叫んだ。
これは僕の願いだ。つまるところ煩悩だ。まだ消えてなんかいないじゃないか。
頭だけになった男はにやりと笑った。
ばかだな、もう友達じゃねえかと言い残して男は完全に消えた。
うなだれる僕に、明けましておめでとうという声がかけられた。
顔を上げると、消えたはずの男がいた。
今年の煩悩だと彼は言った。これから一年よろしくなとも言った。
僕はそいつと握手した。煩悩はそう簡単に消えるものじゃないのだ。
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