第二章 

第18話 熊再び。今日の俺はいつもと違うぜ!

 あれから一ヶ月。俺は一人町から離れ、森の中にいる。目の前にはこの世界で初めて会った魔物の『グリードベアー』がいる。


 以前よりは小ぶりだが、それでも荒々しい目付きと燃えるような真っ赤な体毛は健在である。

 目線の先は当然、俺を捉えていていまにも襲い掛かって来そうである。


「よう、久しぶりだな」


「グルル」


 当然、グリードベアーは俺の言ったことを理解してないだろう。だけど言わずには、いられなかった。コイツは初めて見た魔物であり、恐怖した相手でもある。そして、目標でもあるのだから。


 はっきり言って怖い。足が震えるくらい怖い。小便がチビりそうなくらい怖い。おっぱいに挟まって死ぬくらい怖い。


 ......あれ、それは怖くないか。逆に幸せなんじゃ......おっぱいに挟まって死ぬなら死んでみたいな。あの柔らかそうな感触を味わいながらとか最高だろ。


 まあ、それは置いといてだ。


 その恐怖を乗り越えるなら、コイツじゃないといけないと思う。コイツに......いや、グリードベアーに無理をしてでも勝手こそ克服出来るだろう。


 しかし、ランクAの魔物に一ヶ月そこらの見習い冒険者は普通は勝てないだろう。まあ、普通ならの話だがな。


 俺はグリードベアーを睨みながら一ヶ月を振り替える。二人のメイドを守れるぐらい強くなろうと決めた日から、毎日特訓をした。


 ある時は、スキルの使い方を一日中考えた。その結果、以外にもユニークスキル『パーソナル・スペース』が戦闘に使える事がわかった。

 まあ、それは戦闘の時にお見せしよう。


 またある時は、実際に魔物に挑み、戦いにぼろ負けした。危うく死にかけてしまったのは内緒だぞ。


 はたまたある時は、ギルドマスターことジョンに稽古をつけて貰うために、「ギルドマスターは包茎だぞ~」とギルド内で叫んだ。結果、ギルド内は大盛り上がり。その反面、ジョンの怒りも大上昇。


 ......結局ぼこぼこにされてしまった。でも、稽古をつけて貰えるようになったからよかった。


 そしてある時は、ジョンと一緒に稽古と言いながら、受付嬢のユリスのパンツを見ようと奮闘し、ぼこぼこにされた。

 見たら見たでなんか冷めてしまったなジョンと首を傾げてたっけ。パンツが見えた瞬間は夢と希望が合ったような気がしたんだけどな。

 結論として、見るまでの過程が一番盛り上がると。


 あれ、こうやって考えるとまともな特訓をしたっけ? 

 まあ、実際は濃い一ヶ月だった。そのお陰である程度の魔物とは戦えるようになったし。さすがに、Aランクの魔物は初めてだが......


 ちなみに、これが今のステータスだ。


『カミヤ・トオル』


種族: 人族(異世界人)


職業: 草刈り士


Lv: 52


能力値: 攻 500

守 300

魔 400

魔防 220

速 650

運 3


魔法: 雷魔法7


スキル: 鑑定6 鎌術4 空間把握 気配隠蔽


ユニークスキル: 『パーソナル・スペース』、『適応』』


 以前に比べ、レベルもかなり上がりそれなりには強くなったと思う。実はこれには『パーソナル・スペース』のカラクリがあるのだが、今は言わないでもいいか。


「さて、やるか」


「グルルゥ」


 俺はグリードベアーに対して構え直しスキルを意識する。

 これも一ヶ月で分かったことだが、魔法等と違ってスキルは意識するだけで発動するみたいだ。

 魔法は体内にある魔力を使い明確なイメージをがないと発動しない。それに比べれば簡単だな。


 グリードベアーも痺れを切らしたかのように、俺に突進してくる。その際体を真っ赤に燃やしながら。


「おいおい、燃えるのかよ?!」


 しかし、その突進は俺に当たることはなかった。まるで見えない壁にぶつかったかのようにグリードベアーは停止する。


「ふう、やっぱりこえーよ」


「グル?」


 グリードベアーは何が起こったのか分からずひたすら見えない壁を殴りつけてくる。


 まあ、分かるわけないよな。コレが俺の空間支配系のユニークスキル『パーソナル・スペース』だ。もう一つのユニークスキルと違っていつでも発動出来るから使い勝手がいい。


 だけどこれで終わりじゃない。この力の効果範囲は俺を中心に半径1.5メートルだ。グリードベアーが止まっているのが半径1メートル地点。だから


「ぶっ飛べ!」


 俺の声を合図にグリードベアーは後方に勢いよく吹っ飛ぶ。これは単純に残りの0.5メートル押し出しただけだ。まあ、押し出す力はでかいけどな。


 そして、なぜこんなに吹っ飛んだのか。それは『パーソナル・スペース』の特色の一つ。さらに言うと簡単な命令な程、効果がでかくなる。つまり、攻防一体の戦いが出来るってわけだ。


 だが、グリードベアーはこの程度では倒せない。数十メートル程吹っ飛び、直ぐに立ち上がる。


「やっぱり倒せないわな」


 グリードベアーは前屈みになり、体を燃やす。そして、まるで弾丸のように突進してくる。


「くっ!」


 あまりにもの速さで反応が少し遅れたが『パーソナル・スペース』を展開する。しかし、ガラスが割れるような音と共に壁は砕け、その衝撃で俺は吹っ飛ぶ。


 なんて力だ。相手の力が強いと耐えることは難しくなるようだ。


 俺は吹っ飛んでいる最中に、『パーソナル・スペース』を展開、そして勢いを殺す命令し、その後に空間内で転移を繰り返し、グリード・ベアーから一定の距離を保ち立つ。


 今やったのもスキルのお陰だ。本当に『パーソナル・スペース』様様だな。


 グリードベアーも前屈みになり狙いを定めている。


「やられるかよ、これで決める」


 俺は『雷魔法』を使い右手に雷を宿す。魔法も一ヶ月でだいぶ威力が出るようになった。焼き尽くせるぐらいの電力は出せるだろう。そして『パーソナル・スペース』も発動しておく。


 グリードベアーは先程より真っ赤に燃え突進する。あれに当たったらヤバイな。

 だけど仕掛けは整った。

 俺の支配領域に入った瞬間、反射するかのように右手がグリードベアーを捉える。


「グルアアア」


 右手には高い電流を魔法で宿しているため、一瞬の内に命を奪う。だが、勢いがついたままなのだから、このままだとぶつかって俺にもダメージが入るだろう。

 それを防ぐため事前に支配領域から追い出す命令を設定しておく。

 グリードベアーは軽いノックバックするかのように、すこし後ろに下がる。

 そして、石像のように静止して倒れた。


「ふう、なんとか勝てたー!」


 恐怖を乗り越え、ものすごい高揚間がある。俺にしてはよくやっただろう。


 先程やったのは、自分の雷魔法の強化。『パーソナル・スペース』内なら自由に強化出来るからな。

 そして、支配領域に入った物を右手が捉える命令と押し出す命令。

 たった三つの命令で押し出す力がだいぶ弱くなってしまったが、これは仕方なかったかな。


 でも勝てたのはよかったけど、さすがに今回は怒られるな。アリシアの鬼の形相とミルの涙目をみたら......やべぇ、どうしよう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界ハチャメチャ冒険記 果汁 @juice

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ