新たな人物誕生
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校内を駆け回り、久和と一真は二階の科学室へと身を隠した。
「はあ、はあ。ここなら当分大丈夫だろう」
息を乱しながら腰を下ろす久和。一真はその姿を横目に彼の息が整うのを待ってから声をかけた。
「おい、さっきの質問の続きなんだが」
「なんだい?」
「お前、作者がどうのって言ってたよな?」
「うん、言ったね」
「それはつまり……お前も俺と同じように自我に目覚めたキャラクターなのか?」
「……」
暫しの沈黙。
「そうだよ」
久和は静かに頷いた。
「いつからだ?」
「ついさっきだよ。君と別れてから空が赤くなっていただろ? 恐らくその時に」
久和は窓に振り向き、一真も目線を外へと向けた。空はいまだに血のように赤いままだった。
「あの空のせいか?」
「多分ね」
まさか自分以外にも自我を持つキャラクターが出てくるとは……と、一真は少なからず驚いていた。
「しかし、不思議な感覚だね。さっきまでは動いているという自覚はあったけど、それは操り人形のようにされるがままだった。でも今は自分の意思があり、こうして己の意思で動くことができる」
掌を握ったり開いたりしながら、久和は自分の身体の感覚を確認している。
一真は久和の自我の目覚めについてまだ詳しく聞きたかったが、今はそれよりも知りたいことがあった。
「もう一ついいか?」
「なんだい?」
「作者がどうのって時に、あの化け物はこの物語のキャラクターじゃない、と聞こえたんだが」
「間違いじゃないよ。言った通り、あの化け物は作者の生み出したものじゃない」
「何で分かる」
「それは分からない」
久和は首を横に振りながらそう口にした。
「おいおい、分からないって」
「何て言うのかな……直感、と言えばいいのかな。あの化け物からは作者の匂いがしないんだ」
「匂い?」
「作者の癖というか、作者らしさ、というのか。ともかく、僕達とは明らかに別のモノと感じ取れるんだ」
「でも、それおかしくないか? これは作者の書いた物語だろ?」
「いや、違う。これは僕達の作者が書いた物語じゃない。それは君も薄々感じているんじゃないか?」
「……」
久和の言葉に一真は何も返せなかった。その通りなのだ。先程の襲われた状況は、一真がかつて遭遇したことのない『物語』だった。作者のこれまでの作風とは全く異なっている。
「じゃあ、これは一体何なんだ? 何が起きてるんだ?」
「はっきりとは僕も分からない。でも、一つの仮説が挙げられる」
「何だ?」
「それは僕達の作者にも伝えた方がいいと思うんだ。とりあえず作者とコンタクトを取ろう。作者さん! 聞こえたら、いや違うか、読んでいたら返事をしてください!」
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「何だよ、これ……」
俺は目の前のパソコンから目が離せなかった。
「物語が……勝手に進んでる……」
コンビニに行く前はたしかに一真と久和が別れた所まで書いていた。しかし、帰ってみると一真が知らない化け物に襲われ、それを久和が助け、二人は逃げているという場面がそこには書かれていた。
「こんなの……俺は知らない。俺は書いてないぞ……」
俺は何が何だか分からなくなっていた。思考も身体も動かず、ただパソコンの画面に浮かぶ文字をただ眺めていた。
『作者さん! 聞こえたら、いや違うか、読んでいたら返事をしてください!』
すると、画面に自分に呼び掛ける台詞が現れた。その文字を見てハッ、と我に還った俺は急いで答えた。
↓一真! 何だこれ! お前何をした!
『俺じゃねぇ! こっちだって聞きたいんだ!』
↓はぁ!? 嘘つくな! お前以外に誰がこんなこと出来ーー。
『作者さん、落ち着いてください!』
敬語で話しかけてくる文字を見て、俺はさらに驚き飛び上がった。一真は俺に敬語なんて使わない。そして、今の一真がいる場面にはあと一人しか人物がいない。つまりーー。
↓まさか……久和!? 久和結弦!?
『はい、そうです。ええっと、初めまして?』
↓ああ、これはご丁寧にどうも。
俺は久和に、パソコンに頭を下げた。
↓って違う! 君、本当に久和なの?
『はい、僕は久和結弦。あなたが生み出したキャラクターの一人です』
俺の質問にきちんと答えてくる。一真と同じように。
↓まさか君も……自我に目覚めたのか?
『そうです。一真と同じように、自分の意思で動くことのできる登場人物です』
↓一体いつーーいや、それだけじゃなく、この状況何なの!? 何が起きているんだ!?
『それも含めて今説明します。まずは作者さん、あなたが書いた場面からこれまでの場面を読み返していただけませんか? その方が手間が省けると思います』
俺は久和の言われた通りに、ページを戻って読み返した。
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