オチは黙ってろ!

 トイレから戻った俺はすぐにパソコンの前に戻り、手を叩いてから拝んだ。


「頼む一真。何もせずこのままいってくれ」


 そう言ってから俺は執筆を再開した。


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 放課後の教室。誰もいないその教室に一真はモップを片手に佇んでいる。遅刻のバツとして掃除をするため、クラスのみんなが帰る中一人で居残っていた。


「はあ~、だりぃ~」


 掃除を開始してから十五分ほど経っていたが、ダラダラとこなしているので、掃除の進行度は大分遅い。十五分経っていながらも、まだ三分の一も終わっていなかった。


「あ~、帰りてぇ~」


 口でそう言いながらも一真は帰る素振りを見せない。気持ちに素直に従うなら今すぐ投げ出して飛んで帰るところだが、後程先生が確認に来るのでそうも出来ない。


「あっ、やべ。今日ってイベントの日じゃん」


 一真は今ネットゲームにハマっていて、そのゲームの中で行われるイベントが今日開かれるのを思い出した。


「たしか、時間は十七時から……」


 教室の時計を見ると時刻は十六時を過ぎた辺りだった。窓の外には夕焼けに染まる空が見え、赤みを帯びた光が教室に差し込んでいる。


 時計を見つめながら頭の中で掃除、そして帰宅までの行程を予想すると、急げばイベントに間に合いそうだ。


「こうしちゃいられない。さっさと終わらせよう」


 一真はモップを動かし始めた。


「いい眺めだね」


 しかし、教室に響いた声に一真の動きが止まった。振り向くと、入り口に一人の少年が立っていた。


(誰だ、こいつ?)


 身長は一真よりも少し低く、同年代の子だろうか。肌が白く、整った顔立ちをしており、カッコいいというよりはかわいいという表現が似合いそうな出で立ちだ。だが、一真はこの学校でこの少年を見たという記憶はない。


「いい眺めだね」


 その少年が先程と同じ台詞を吐いた。そして、教室に足を踏み入れると窓の傍まで歩み、外を眺め始めた。


「誰だお前?」


 その少年の背中に向けて一真は単刀直入に聞いた。


「僕? 僕は久和結弦くわゆづる。よろしく」


 こちらに振り向き答える久和結弦という少年。名前を聞いてもやはり聞き覚えの無い名だった。


 そこで、一真はあることを思い出した。


「お前、ひょっとして転校生か?」

「あれ? どうして知ってるの?」

「転校生が来るって話を聞いたからな。それに、お前の顔はここで見たことがない。その二つを踏まえると容易に辿り着く」


 ふ~ん、と言いながら久和は一真の方に近付いてきた。


「もう知られているのか。本当はビックリさせようと黙ってて欲しいって頼んだんだけど、やっぱ人の口は閉ざせないもんだね」


 近くの机に腰掛け、足を揺らしながら再び久和は一真に話しかけてきた。


「ねぇ、僕のことは何て話されているかな?」

「知らね」

「え~、なんかあるでしょ? 超イケメンらしいとか、前の学校では番を張ってた筋肉ムキムキの強面だとか」

「だから知らねぇっての。野郎の転校生なんかに興味持つかよ」

「うわ~、なんか傷つくなそれ」


 胸の辺りを押さえ込み、苦しむような動きをする久和。


 なぜだろう。その仕草が無性に腹が立つ。今すぐにでも殴りたい。


 すると、まるで用意されていたかのように一真の手にはモップが握られていた。一真はそのモップを握り直し――。


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「わあぁぁ! バカバカバカ、やめろ!」


 俺は急いで一真を止めに入る。


 ↓一真、お前何しようとした!?


『チッ、気付かれたか』


 ↓チッ、じゃねえよ! 転校生をいきなりモップで殴るとかあるまじき行為だろ!


『本能に従おうとしただけだ』


 ↓本能!? 何の本能!? 登場人物の本能!? 斑目一真の本能!?


『うるせえな。ただモップを有効利用しようとしただけだろうが』


 ↓モップは人を殴るためにあるんじゃない。掃除をするためにあるんだよ。


『だからだろ。殴れば血が流れる。それをモップで拭き取る。どうだ、本来の用途じゃねぇか』


 ↓違う違う! 拭き取るもんが違うから!


 あぶねぇ。現代アクションにするつもりが、あやうく血みどろのホラーになるとこだった。


『だいたい作者、何だよこいつ。男か女か分かんねえ容姿にしやがって。もっとはっきりしろよ』


 ↓ふっふ~ん。そこにはちゃんと意味があるのだよ、君。


『どうせ、「実は男の格好をした女の子でした」とか言うんだろ』


 ↓なぜ知ってる!?


『そのまんまかよ。浅はかだな、お前』


 ↓いや、というか先にオチ言うなよ。このあとの展開の楽しみがなくなるだろ。

 

『別に知ってようが知らなかろうが、お前の物語の出来の悪さには変わりゃしねぇよ』


 ブチンッ。


 何かが切れた俺は傍らにある抱き枕を取り上げ立ち上がると、床に何度も叩きつけた。


 あまりやり過ぎると階下の人に迷惑がかかるので数回で終えて再びパソコンに向かう。


 ↓まあいい。話を進めるぞ。


『ちゃんと捻れよ。もっと斬新さがないと物語は面白くなら――』


 俺は一真の言葉を無視して物語を進行させた。

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