異変
「ふぅ、とりあえずこんなもんか」
キリのいい所で俺はキーボードから手を離した。時刻を見ると、執筆してからまだ一時間ほどしか経っていない。まだまだ進められそうだ。
「さて、どう持ってくかな」
俺は腕を組み、パソコンとにらめっこをする。
転校生を登場させたのは、当初描いていたストーリーに引き戻すためだった。本来なら、
曲がり角で少女とぶつかる
↓
怪我をしたので病院に運ぶ
↓
突如病院に謎の人物が襲いかかってくるが、少女はその人物を特殊な武器で倒す
↓
少女の正体は異世界から来た戦士で、この世界に侵略しようとする組織を壊滅させるため在住している
↓
正体を知られた彼女は一真に協力を要請し、共に組織を倒していく
とまあ、ベタっちゃベタな物語の構想だ。しかし、一真が余計なことをしたので一個目から大幅にずれてしまった。たしかに怪我はしたのだが、タックルで吹き飛ばしたとなると軽い怪我ではないはずだ。これこそ病院に運ぶべきなのだろうが、重症の彼女は昏睡状態になるような気がする。このあとの謎の人物を倒せるかどうか……。
そんな不安からなんとか元に戻すため、転校生という手段を用いた。よって、
転校生現る
↓
席が隣になり、何かと転校生と行動を共にする一真
↓
謎の人物に襲われる
以降同様の展開に引き戻す。
「うん、これなら違和感なく展開できるな」
大まかな流れは出来た。問題なのは転校生が現れるまでの間だ。
普通に転校してきたと書いては面白くない。ちょっと特別な出会いを入れたいと俺は考えていた。何かないかと読み直していたら、「掃除当番」の字を見て一つの案が浮かび上がった。
そうだ。一真に居残りをさせよう。一人で掃除をしている最中に教室に転校生が姿を現す。少女は一真に意味深な言葉を投げ掛けその場を去る。そして、次の日に少女と再び出会う。
「ただ出会うだけじゃつまらないからな」
我ながら名案だと悦に入っていた。そして、次は一真が一人で掃除をする場面に突入するつもりだ。今のところ一真も邪魔をせず、俺の書いた通りに従っている。これなら順調に事が運べそうだ。
とうとう『俺の』小説が完成する。
そう思うと、自然と握りこぶしを作り喜びにうち震えてしまう。
喜びで身体の筋肉が緩くなったのか、尿意を催してきた。
「おっと、トイレトイレ」
俺は立ち上がり、トイレへと向かった。
パタン、とトイレのドアが閉まると、パソコンの画面に一瞬ノイズが走った……。
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