第6話:迷子の始末屋
◇◇◇
始末屋アーク・レインドフは仕事の依頼を受けて、喜々として仕事に飛び出していった。
目の前に執事もメイドもいなかったので、報告する時間ももったいないと無断で仕事をしに行ってから三日後、アークは戻ってこなかった。
「あの馬鹿主……」
執事であるヒースリアはため息をつく。
初日に主がいないことは気付いたが、別段いつものことなのでそのうち戻ってくるだろうと気にしなかった。
しかし三日目たっても戻ってこないということは、どこかで倒れている可能性が濃厚だ。
アークの自室に入り、念のためベッドの下、壁、本棚の中を確認するが彼がいる姿はない。
開きっぱなしの窓から入ってくる風が心地よいのがまた苛立たしかった。
「ワーカーホリックもたいがいにしてもらいたいものですね。拾いに行く身にもなってほしいものです。迷子になられると余計に手間がかかるんですよ……全く」
行き先を聞いていないので、仕方なく仕事の書類関連を保管してある引き出しを漁る。
万が一泥棒が入った場合を考えて施錠こそされているが、ヒースリアは簡単に鍵を開けて日付が新しいものを確認する。
「その辺でのたれ死んだらどうするつもりなんですかね。始末屋レインドフなんて、有名な人物の首が取り放題と知ったら我さきにとハイエナが集まってくるでしょうに……」
目星がついたので書類をもとに戻し、鍵をかけ直す。
結んでいなかった銀髪をピンクの布でゆったりと結ぶ。
屋敷を後にして、主が三日三晩の仕事を満喫した後、熟睡して倒れているだろう場所を探しに出かけと、とある屋敷でアークが死んだように眠っているのを発見できた。
「図太い神経を木っ端みじんに踏みつぶしたくなりますね」
アークの手によって始末された人族の死体が転がっていくつも折り重なった場所にあるテーブルの上で、彼は横たわって眠っていた。
純白だっただろうテーブルクロスは血に汚れ、蝋燭は火がともっていないのに燃え盛るように赤赤しい。
フォークやスプーンには生々しい跡が付着しており、何でも武器にするアークが使用した痕跡が残っている。
床には豪勢なシャンデリアが落下してみるも無残な形になっている。天井を見上げると、シャンデリアがあっただろう場所に燭台が突き刺さっていた。
「起きて下さい、主」
アークの元まで近づき、使用済みフォークを片手に半回転しながら勢いよく突き刺す。
首真横に突き刺さったフォークは、あと数ミリ位置がずれればアークの首に血の切り傷を入れたことだろう。
「ちっ。憎たらしい主ですね。私が殺す気がないと思うと、交わす素振りすら見せないのですか」
「おはよう」
「何がおはようですか。武器を突き立てられてから目を覚ますなんて、神経どうかしていますよ?」
「武器を突き立てるよりもっと親切な起こし方をされたかった」
アークは目を開いて迎えに来た執事を眺めると、忌々しそうな表情をしていたのがおかしくて微笑する。
「首に消えない傷跡を作らなかった時点で親切ですよ」
「どんな親切だよ……」
「まぁ主なら、憎たらしいことに怪我をさせようと思った時点で、殺気に反応し目を覚ましたのでしょうけれど」
「まーな」
怪我をさせようと思って生じる気配に、熟睡していても寝てから時間がたっているアークが気付かないはずがないことをヒースリアはそれこそ憎たらしいまでに理解していた。
「全く、殺害現状で死体と一緒に寝るのが嫌なのか知りませんが、だからといって血まみれのテーブルを選ぶ必要はないでしょう」
「眠気がすごくて、移動するのが面倒だった。腹も減った」
「そこの人肉でも食ったらどうですか」
「遠慮しとくよ。死体をさらに利用する気はない」
「死体すら武器にしてしまう人でなしがいまさら何を言うのか……さぁ、行きますよ。貴族をまた殺害したのでしょう? なら異変に周囲が気付いてもおかしくない」
「それもそうだな」
アークはストレッチして体をほぐす。偶々、自分の首横のテーブルを貫いたフォークを見る。
「なぁ、なんでフォークを使ったんだ?」
「テーブルの上で俎板の鯉のように寝ていたから料理されたいのかと思いまして」
「その辺にあったって回答の方がましだな」
「主じゃないのだから、そんなつまらない理由でフォークをチョイスするわけないでしょう」
「……ヒースはホント、人をけなすのが得意だよな」
「得意ではありません、趣味です」
「もっと悪いわ!」
いつものやり取りをしながら、一目を忍び移動する。
腹が減ったとアークが煩いので仕方なく、岐路の途中にある小さな町に寄り道をして手頃な場所で空腹を満たし、レインドフ邸に帰宅した。
帰宅するころ合いには、空を鮮血のように染めていた夕日は沈み、一体を暗く染め上げる。
「おかえりさーい! 主、早く夕飯を作って下さいです!」
もうひと眠りするかと思っていたアークだが、出迎えたメイドに夕飯をせかされて、仮眠よりも先に夕飯を作ることにした。
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