第2話笑顔なんて忘れた

「あの子はいらない。」

 




 懐かしい声がする。忘れもしない、あの六歳の三月。満月の日のこと。物心ついて間もないころだったからより鮮明に。覚えている。

「あの子がいるから。」





 何度も聞いたこの言葉。まるで、テープレコーダーみたいに繰り返されるこの声。間違いない。両親の声だ。

「あの子さえいなければ。」





 そうだ、私さえいなければ。私みたいな、みたいなのはあの人たちにとっては、邪魔でしかない。





琴音ことねさえいなければ…」
















「う~ん…夢?」

 目が開いた午前三時。今までのは何だったんだろう。夢なのだが、現実感満載の最悪な夢。しかも、半年前から見始めて累計るいけい五十回。


 自分でわかる。異常だと。何かの病気か、それともストレス過剰かじょうか。どちらにしろ心当りはある。というかもう確定している。


 みなさんお察しの通り、今朝見た夢はすべて私の実体験だ。それも現在進行形の。母は私と接することはないし、父なんて、夜遊びしていつも朝帰り。現に、今起きたのも父の地鳴りのようないびきのせいだ。


 朝の支度をして、午前五時。早いというか、まだ、犬の散歩もしていないが、登校する。それだけ家にいるのはつらいのだ。しかし、そんなことをあの人たちに話したら、首が飛ぶのも時間の問題だ。そう、私の家族は今は、自分で飼い始めたクマノミだけなのだ。

 家にいるのはつらい、しかし、学校は私の唯一の居場所となっている。友達はもちろん、先輩、先生。いろんな人と接すれば接するたび、私の心の傷は癒されるのだ。

 いつものバス停、始発が六時だからまだまだ時間がある。今は五時三十分。いつもなら一人でリズムゲームでもしている時間。しかし、今日は先客がいた。同じ制服、同じリボンの色。同級生であることは確定した。だが、こんな朝早くに来るとは物好きな人もいるものだな…

 私が声をかけようとすると、

「遅いわよ、西条琴音。」

「おはよう、って早すぎじゃない⁉南沢…ユイちゃんだよね?」

 金色のツインテールをゆらしながら近づく彼女。三年C組の学級委員の南沢ユイだ。彼女とはあまり話したことはないがこの前、ひょんなことから話しかけられた。


 いや、ひょんなことなんかじゃない。


 ものすごく重大なことで、驚愕した。


 あれは今から三週間前…














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まじょがーる てっつー @tetsuki

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