第4話 おあいこ
寛治が改札を飛び越して先輩にキスしたとき
「これで(おあいこ)ね」と先輩は言った。
ということは「あの時」の事を先輩は忘れてはいなかったということだ。
それははっきりした。先輩は忘れていなかったのだ。
では「なぜ」彼女は泣いていたのか?
そこはまだわからない。
そんな時電話がかかってきた。
「おう、かんち。げんきか~~」
「また飲んでるのか?夏希」
電話の相手は高校の同級生の「青山 夏希」だ。
図書委員のメンバーの一人で、サッカー部のマネージャーをしていた。
「また振られたのか?」
「振られたんじゃない。振ったんだもーん」
酔っぱらいはタチが悪い。
「ところでかんちは彼女出来た?」
大きな声に携帯を少し離す。
「彼女はできないけど、」
「なーんだ、つまらなーい」
「聞けよ、できないけど。薫先輩とデートした」
「ふーん」
興味はない様だ。
「あのさー(どうそーかい)しない?」
「健二が帰ってきてるんだよ。あの(どーてーくん)が。。」
「へー健二が。。」
健二とはお察しの通り同級生である。モテないからか「童貞くん」という不名誉なあだ名を賜った「悲劇の人」である。
「それがさーあのどーてーくん。いまじゃ6人の子持ちなんだって。あはは」
「で、どーてくんの奥さん誰だと思う?」
女という生き物は時々聴く側の考えを無視してクエストを出してくる。
「あの、真紀ちゃん、だよ。あのみんなが狙ってた。」
真紀ちゃんはクラス一の美人で薫先輩と双璧をなす美人であった。
頭もよく清楚、クラスの男どもは二つに割れた。
「え。真紀ちゃん。。。まさか。。」
「なんでもどーてーくん、真紀ちゃんに108回告白したらしいよ。」
「へー」108とは人間の煩悩の数らしい。
「101回目のプロポーズを上回ってない」
「うける~~」
何がうけるだ。健一の誠意ってものだ。結局人生誠意というものが人を動かす。
「でさ、~どーてくんと真紀ちゃん。あたしとかんち。ついでに薫先輩、でさ~、集まって。。。。」
電話は切れてはいないが会話が止まった。
おそらく夏希は寝ているのだろう。こんなことは彼女の失恋の数ほどある。
電話を切ると夏希にメールを送った。
後日健一夫婦に連絡を取り、先輩にもメールした。
夏希の話には間違いがある。
「108回告白したのは真紀ちゃんのほうである」
「子供は3人(しかも三つ子)で全員女の子である。」
ということである。
とかく人のうわさというものはあてにならないものだ。
日にちの調整を取って休日にランチを食べようという話になった。
当日お昼前にレストランで集まった。マスターとは旧知の中で「わがまま」が言える。
「おー、かんち」
健一の大きな声が聞こえた。
それにこたえるように「おー、健一」男二人はハグした。
それを夏希と真紀ちゃん、先輩がみてあきれていた。
正確には真紀ちゃんと健一の娘3人である。
「あれを(ほも)というらしいよ」
「へー」「へー」
健一の娘たちの会話だ。
それを真紀ちゃんがいさめる。
全員が昔を懐かしんだ。(健一の娘たち以外は)
とりあえずに健一夫婦に「ご祝儀」を渡す。
(不良債権がまた増える。。。)
実は真紀ちゃんは初登校の日不良に絡まれた。それを助けたのが健一だ。
真紀ちゃんはその日に告白したが健一は「美人すぎる」真紀ちゃんに戸惑った。
で。108回目の告白は健一が「僕と結婚してください」だった。
つまり107回の告白だったというわけだ。
その時お腹には三つ子がいたという。
夏希がしばらくして携帯に手をかけ誰かに電話し始めた。
すると25歳くらいの若者が店を訪れた。
「へいぞーくん」
夏希は大きく手を振る。
男は気が付いてこちらに向かってくる。
夏希の隣に座ると
「紹介するね。私の(彼)長谷川。。。。なんだっけ」
「はじめまして、長谷川 英二と申します。」
「そ、へーぞーくん」といって夏希は長谷川の腕を取った。
なんでもレンタルビデオで「鬼平犯科帳」を手にとったとき手が触れたのが「へいぞーくん」だった。でナンパされたというわけだ。夏希はいわば「おじさま」が好きだったがそれは時代劇が好きだったというわけで、へいぞーくんの語源は「長谷川平蔵」なのだ。
神様は赤い糸を意外なところに結ぶものだ。
そんな話をしていると先輩も
「実は、、、」
といって寛治の腕を取る。
「私たちも付き合ってるの。」
「え~~」一同が声をあげた。(寛治も含めだが)
「じゃさ。トリプルデートしない?」夏希がはじめる。
こうなったら女同士の話し合いで終わるものである。
これに娘3人が加わって。「私たちも。」
とかいうので健一が慌てる。
とかなんとかで「同窓会」なるものが終わる。
自然と夫婦、カップル同士が帰路につき、寛治と薫先輩が残る。
二人で帰路につくが会話が出てこない。
しばらくして
「今度の日曜日」
そして
「一緒に行ってほしい場所があるの。。。」
何かを押し殺して先輩が言った。
「はい。」
寛治は長年封印されてきた「秘密」がもうすぐ明かされることを「覚悟」した。
闇が二人を包んでゆく。
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