**幕間**
第8話
**幕間**
【ふたり、一年と一月と少し前】
――レールの切れ間が伝わる振動。
「思ったより長かったな、入学式。尻と膝が痛くなったわ」
「つーか腹減った。ヒロ、何か喰うもん持ってねぇの」
「まだ学校生活も始まってないのにそんな早々に校則破らないって」
「こんなに長くかかるって分かってたら、俺は絶対持ってきてたけどな」
――新しい制服からの慣れない匂い。
「やっぱここまで帰ると、鉾谷生乗ってねぇのな」
「うん。乗ってても一駅目、二駅目くらいだったな」
「あぁ羨ましい羨ましい」
「っていうか元々、こっちで列車通学は少ないっぽいし。俺としては嬉しい」
「住宅地的に学校自体、反対方面から来てるやつらの方が多いだろうしな」
「あっちならもっと遠い人も居るかも」
「あぁ、三谷とか大澤はそれで親に車で送迎してもらうらしい」
「誰それ?」
「俺のクラスの奴ら」
「ふーん。送迎か……金持ちボンボンみたいだね?」
「家庭の財政事情まではまだ突っ込んで聞けてねぇよ。クラスメイトつってもまだ初日だぞ」
――どこからか聞こえたほかの乗客の盛大な欠伸。
「明良とクラス違ったのがなぁ……ショック」
「いいじゃねぇか、新天地。目指せ高校デビュー、いぇー」
「いぇー、って。俺、今日自分の席にガッチガチになって座ってただけだったわ。なんでみんな初日からあんなにテンション高いわけ? 絶対おかしい」
「ナメられちゃいけねぇって心構えからじゃね、男子校だし」
「はぁもう無理無理。まずその発想が理解出来ない」
「これから三年通うのに初日からそれでどうすんだよ」
「どうにかするのは、する。……するしかない」
「ハイじゃあ頑張れ応援してっぞー、いぇー」
「うわー棒読み。他人事だと思って楽しんでるでしょ」
――買ったばかりの白いスニーカー。
「ヒロ、部活とか入ってみれば? 人慣れするんじゃね?」
「えぇ……。もし入るとすれば文化系が良いんだけど、……こう言っちゃなんだけど、今日の部活動紹介で見た感じでは、ロクな文化部無くなかった?」
「豆知識披露の将棋部、萌キャライラスト大公開の美術部、弦楽器経験者募集中の吹奏楽、専門用語過ぎてほとんど分かんなかったパソコン部……他に何かあったか? 同好会は貰った冊子での紹介だけだったし、そんくらいか?」
「ん、あと文芸部もあった。ほら、最後にみんな揃って眼鏡クイッてしてたじゃん。来たれ、文芸部! って」
「あぁ、あれはまぁウケてたな。それまで真面目に喋ってたギャップもあって」
――車窓にこびり付いた桜の花びら。
「お前のクラスの飯島ってやつは文芸部か映画研究同好会入りたいらしいぞ」
「飯島ー? 俺まだ話してないわ。なんで明良が知ってんの」
「受験の時にあいつ居ただろ。お互いそれ覚えてて、今日ちょっと話した」
「居たっけ? 明日ちょっと気にしてみよっかな。で、明良は? 部活、どっか入るとこ考えてんの?」
「帰宅部。列車逃したら面倒だろ、本数少ないのに」
「やっぱりそうなるよな。だったら俺も帰宅部だわ」
――生徒手帳が入った胸ポケットの厚み。
「っていうか、今更だけど明良なんで鉾高にしたの?」
「マジで今更だな。いや、前にも言わなかったか?」
「俺が覚えてないだけかもしれないけど。明良の頭ならもっと上の、片丘西とか、白浜第二も行けたんじゃない?」
「単純に家出んの面倒臭かったんだって。あと、俺そんなに勉強したくねぇし、自分の力量も分かってっから。エリート集団の底辺でいるより雑魚集団のトップがいい」
「あぁなんかその酷い言葉は聞き覚えがあるわ」
「鉾谷が男子校の割に生徒人数多いのも、鉾谷くらいにしか行けないレベルのバカがそんだけ多いってことなんだろうな。……おい、安心してんじゃねぇよ」
「うるせー、どうせ俺は雑魚の一匹だっつの」
――今日から使用の定期券は鞄の横ポケットの中。
「でも俺らが高校生って。なんか変な感じする。しない?」
「どんな感じだよ。もうちょい言葉にしろよ。高校生なんだろ?」
「じゃあ……、あー、感慨深い、とか? 俺らも育ったなぁっていう」
「ちっさい頃から全然変わった気はしねぇけどな、お前も俺も」
「まぁねぇ。これからもどうせそう変わんないよ。俺らだし」
――ボックス席の対面には。
――これまでを一緒に過ごしてきた、これからもそうだろう、友人がひとり。
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