第6話
***
【田中弘人】
終礼前の掃除時間。長箒で階段の踊り場を掃除していると、
「なぁ、ちょっと訊きたいんだけどさ」
いつもより硬い声の飯島がそう切り出した。
席順で割り振られた掃除場所、同班席である俺と飯島は担当が同じだ。どかしていた消化器を戻して俺に振り返り、飯島は言う。
「田中って鈴掛と仲良いだろ。お前なら、あいつがされた嫌がらせって知ってる?」
一瞬、意味が分からなかった。
明良に嫌がらせ? そんなの知らない、聞いてない。
「え、……いつ?」
その反応じゃ田中も知らないんだな、と飯島は眉を寄せる。
「なんか俺、はじめその犯人に思われてたみたいなんだよな。俺の家の場所聞いてから推定無罪って言ってたから、俺の疑惑は晴れたっぽいけど。どういうもんなのか全然聞いてないから、内容はまったく分からん」
その言葉を聞いているうちに、ピンときた。
――手紙のことだ。
あの手紙のことを明良は嫌がらせって言って、それで――手紙を書いた犯人を、探しているんだ。
そう思い至って、俺は心臓が冷たくなった気がした。
犯人探しは止めようって約束を破られたことも、俺に黙ったまま明良が一人で行動を始めていたことも悲しい。だけど何より、俺は大きな価値を感じている不思議な手紙が、明良にとっては嫌がらせなんてマイナスなものに思えていたのだということが。
どうやら飯島は違ったみたいだけど、明良はもう犯人を見つけてしまっただろうか。
「あいつって自分からそういう相談とかしてきそうにないし、田中も、一応気に掛けといてやれよな」
俺が情報源としては何の役にも立たないと思ったらしい。飯島はそう言ってしゃがみ、チリトリを構えた。
「そうするわ。……教えてくれてありがと、飯島」
俺は礼を返して、集めたゴミを掃き入れる。
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