騎士として、親友として Ⅲ

「アルバート」

「なんだよ」

「それでも僕は、」

 友達でいたいんだよ、と僕は言いたかった。言えなかったのは馬車が急に止まって、僕はアルバートの方に投げ出される格好となったから。

「おい、大丈夫か?」

「大丈夫……」

 顎を打って摩りながら顔を見上げる。

「服、汚れるぞ」

「大丈夫だよ」

 僕はアルバートの隣の席に座り直す。ナンシーが馭者ぎょしゃの方に出て行った。

「なんだろう」

「さぁね」

 僕らは馬車の中で待機していたが、ちょっと長すぎる。その間、僕たちは何もしゃべらずにいた。じっと沈黙の時間が続く。

「それよりお前さ」

 先に口を割ったのはアルバートだった。

「なんだよ、アルバ」

「俺の方に飛んできた時、思いっきり腹に頭ぶつかって痛いんだけど」

「あぁ、ごめんよ」

 僕は素直に謝るが、アルバートは疑心の顔。

「というかお前の体重軽すぎねぇかな。飛ぶか? ふつー?」

「うるさいな。身長伸びなくなったの。体力つけてるつもりだけど無理あるんだって」

 僕らは口喧嘩する。僕らは、並ぶと僕の方が、少し背が高かった。でも、最近僕は、背が伸びなくなった。何をしても伸びなくなってしまった。その代わりに、アルバートの背はどんどん伸びている。今にも僕の背丈を追い越しそうだ。

 そうしている間にナンシーが帰ってきた。

「お坊ちゃん、アルバート様、何かあったのです? そんないじけた顔をして」

「何も!」

 僕らの息はピッタリで、それが逆に腹立たしい。

「なんか不具合?」

「ええ。小石が挟まっていたようです。今、外れました」

 馬車はいつも通り動き出す。

「それはともあれ、着きました」

 僕がさっき脱出したばかりの屋敷にまた戻ってきてしまった。公爵家フェレッティ家邸宅。国王の次に偉い家の庭園はとても綺麗に整えられている。

「スッゲェ……、スッゲェよ!」

 アルバートはそう言って目をキラキラさせている。

 僕だって初めに見た時はそうだった。鏡で写したような左右対称の本邸、離れ、納屋。僕の部屋は離れにある。お嬢様の部屋は本邸の最上階だから少し離れているのだ。

「アルバート様は、わたくし達についてきてくださいまし。案内致します」

 ナンシーがそう言った。

「えっと、これ俺入っていいの?」

「……分からない。というかなんでアルバが招待されてる形になってるのか、僕も意味不明なんだけど」

 僕らは顔を見合わせるが、ナンシーは変わる様子なく案内する。

「今、帰りました……」

 僕が門番の使用人にそう呟いたのは、脱出して二時間。

「お、お邪魔します?」

 アルバートの半疑問は拭えない。

「おい、お坊ちゃんよぉ」

「なんだよ」

「どういうことなの」

「僕に聞かれたって僕が知るわけないだろ!」

 僕らがコソコソ小声で話すのをナンシーは聞いていたようだ。「お坊ちゃん、アルバート様」

 急に彼女は振り返る。

「ヒィッ」

 アルバートの悲鳴だ。情けない。僕も一瞬驚いた。

「……理由はアルバート様が一番分かっていらっしゃるはずかと思いますが――、説明は致しましょう。お坊ちゃんはしばらく席を外してもらえますか? 旦那様に呼ばれているのはアルバート様、だけでありますから」

 ナンシーの口調は、少し冷たく、突き放すかのようだった。

「お坊ちゃん」

「……分かりました」

 僕は二人に向かってお辞儀をしてその場を立った。

「僕は、これで失礼いたします」

 二人にお辞儀をしてその場を離れる。僕がその場を離れた後、二人はどんなことを話したのか、僕は知る由もない。

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