過去未来数百年Ⅱ
さて、二人がこの家から出たのはそのすぐ後のことだ。ナンシーに小言をもらい二人は店を出る。アンジェリカが投げキッスするのを、アルバートは手で払いのける。
「アルバさぁ、アンジュに好かれてるよね。なんでだろ?」
「しらねぇよ」
「僕は可愛い可愛いって言われるけど……アルバはなんというか妙に色っぽい目で見ている気がする……アンジュに昔なんかしたの?」
「してねぇよ! むしろされる方だよ! 初めっからディープなやつ仕掛けてきたんだよ!?」
ロドルは意味深に顎に手を乗せる。
「アンジュのタイプのど真ん中なのかな。そういえば、ゼウス様ってアルバートに顔少し似ている気が」
「俺もう、顔を覚えてないぞ」
「顔はゼーレ様によく似ているよ。背が高くて若干目が切れ長で……。うーん。そう考えてみるとアルバとあんまり似てないかも」
ロドルはまた考える。
「そういえばアンジュ、僕にアルバートへの贈り物をあげてって言ってたんだよ。これなんだけど」
「なにこれ」
「僕は、お酒あんまり知らないから分からないけど、結構いいやつっぽい」
「……ウィスキーだ」
バトラーであるアルバートには一目で分かった。
相当高そうなそれの価値を。
「これ、くれるのか?」
「うん。飲んでって」
「ありがたいな」
なかなか手に入らないものだ。
アルバートは家に着いてまず、受け取ったそれを自分の荷物のところに置いた。少々買収された気がしてならないが、酒に罪はない。
自分たちが次にすべきこと――。
なぜ、カポデリスに来たのかを、この大荷物を見て思い返す。
「お前さ、一回リアヴァレトに戻って月光瓶の調子を整えた方がよくないか? 猫になったらどうする? 俺はもうあの店に行きたくないぞ」
「大丈夫。月光瓶は十分溜まってる。だから今日一日は平気なはずだよ。それに、今、リアヴァレトに帰ってもね」
ロドルは暗い顔をした。アルバートはそれが心配で声をかける。何かあるのだろうか、と。
「何かあるのか?」
「二日、仕事をしないで休みを取ったことになっているんだぞ。しかも、ゼーレ様の嫌いな人間がいるカポデリスで遊び呆けていると知れたらどんな仕置きをされると思う? 僕は、尻打ちはもう覚悟している。せめて、仕事の為に外出していたということにしたいんだ。だから、溜まった本が多すぎて三日も休みましたという体裁にしたい。刑罰を受けるのは嫌だ。痛い思いはしたくない」
「そ、そうだな。俺も料理長に怒られる。酒の管理は俺の仕事なのに」
アルバートはそれ以上、聞くのをやめた。
「僕、ゼーレ様に怒られるのだけは嫌だ」
「俺も嫌だよ」
ロドルとアルバートは喋りながら本を積み上げる。
「この本をノービリスの手前の森まで送るんだ。そこからは関所を通る。ノービリスの結界には魔法陣で入れないから、その方法を取るしかない」
「魔法陣は」
「今から描こう。アルバは本を積み上げといて」
ロドルが指示するので、アルバートはそれに従った。作業は着々と進められ、三十分くらいで完了する。
「さて、出来た。準備はいい?」
「大丈夫だぞ。いつでも来い!」
ロドルが頷き、魔法陣を発動させる。赤い光が吹き上がるのは彼の魔法の特徴。アルバートには光が眩しすぎるので、彼はいつも目を瞑っている。
「着いたよ。アルバート」
「あぁ」
アルバートが目を開けると、見たことがない場所にいた。
「ここがノービリス?」
「そうさ。正確にはノービリスの手前の森だよ。アウリッシュの森という。聖戦時に逃げた貴族王族が数年潜んだ森と言われている。確かにその通りで僕はあの時、皆にここに潜むように言ったんだ。だからこの辺りに空き家がたくさんあってね」
「皆」
アルバートはそれ以上を聞けなかった。ロドルはふいっと話をずらし、森の奥に入る。
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