弟作戦軟派野郎

「あー、ちくしょう強い! お前ズリいよ、あんな手を使うとか無いわー」


「僕も負けたくない。卑怯な手だろうが、手は手だよ」


「人畜無害そうな顔してもー! 片っ端から掻っさらうなよ!?」


「そういえばこの勝負、勝った方は賞金出るの?」


「嫌だ、言わねぇぞ! 今んとこお前のぶっちぎりなんだから!」


「……卑怯だぞ! お前が言い出したくせにぃ!」


 二人は三軒目の店を出た後、そんな会話をした。次は四軒目の雑貨屋。入ってお目当てのものを探し、店員に声をかける。そしてロドルが真っ先に声をかけたのは、優しそうな顔の女性店員。


「お姉さん。ちょっと聞いてもいいかなぁ。僕、コレをプレゼントにあげようと思うんだけどお姉さん選んでくれない? 僕、あんまりセンスないから、お姉さんに決めて欲しいなぁ」


「いいわよー? この中の四つでいいでしょうか?」


「うん、お姉さんが選ぶものなら喜んで。きっと贈り主も喜ぶと思うんだ」


 ニコッと笑ってロドルはお姉さんの顔を覗き込む。そしてお姉さんが選んだのは可愛い黒猫の置物。ロドルはそれを選んで買い、包むお姉さんを待ちそれを受け取った。


「お姉さんありがとう。じゃあ、これお姉さんにあげるよ。僕の言った通り、が喜ぶものでしょう?」


 ロドルはお辞儀をしてその場を去る。アルバートの苦々しい顔を見てニヤリと笑った。


「狡いぞ、可愛い弟作戦。台詞もクサイし、よくあんなにペラペラと舌が回ること回ること!」


「嫌だなぁ。先に言ったのは君だよ? アルバート。ほら、楽しみだなぁ。久しぶりに君に勝てそうで。何してもらえるのかなぁ」


「チッ」


「口が悪いよぉ〜、僕は君の案に乗っただけなんだよ? 会話術で君が僕に勝てたことがあるかい? 演技は昔から得意なんだよ?」


「そうでしたね。悪うございました。降参だ、降参。手を取って甘い言葉の一つや二つ吐けば堕とせるレディキラーに負けは無いってか」


 レディキラー。意味としては見た目が穏やかですっきりとして優しく甘くて飲みやすく、だが、実際のアルコール度数は高いがためにあっという間に酔いが回りやすいカクテルの事を指す。


 女の子を酔わせて手中に収めるこいつの手口にそっくりで、まさにこいつを形容するにはもってこいの言葉だ。


「レディキラー?」


「お酒が苦手なお前は知らないか」


 ロドルは少し不思議そうな顔をした。そのカマトトぶるあざとさも、十分レディキラーと形容できる。


「次の店は……向こうか」


「あぁ」


 ロドルが方向を変えたその時だった。ロドルとアルバートの間に何かが通った。ロドルはそれに弾き飛ばされ、アルバートはよろめいた。ロドルが尻餅をつき、地面に倒れる。


「引ったくり!」


 アルバートが声をかけるもその影は走り去る。ロドルは頭を押さえながら、アルバートを見上げた。


「大丈夫か? なんか盗られたか?」


「いや、なんも。逆にスリ返したくらいだよ。ほら、あいつの財布。だからなんも盗られてない」


 いつの間に。アルバートはため息を吐く。こいつは昔から手が早く、素早いがそんな余裕ぶる時間はあったのか。


「身分証とかも盗られてないんだな?」


 アルバートがロドルの手を引っ張る。


「あぁ。あいつが持って行ったのはただの空の袋さ。今頃大慌てだろうね。すっても、スリ返されるとは思ってもみないだろうし」


 その時、ロドルの懐からは何かが落ちた。それは地面に落ちて、ロドルがその上に手をついた。


 ――ガチッ。


「ん?」


「え?」


 ロドルの手の下には一つの瓶。試験管の中に金に光る光。その表面が割れていて、中の光はそこから逃げ出しロドルの周りを二、三度回ってからどこかに消えた。


「……アルバ」


 ロドルがボソッと呟いた。


「僕を抱えて裏路地に入れ! 早く!」


「まさか、月光瓶か!?」


「そのまさかだ。!」


 ロドルの身体からはもう白い煙が上がっている。


「ヒェッ! あのコソ泥、よりによって月光瓶を割りやがって!」


 アルバートはロドルの身体を抱えて裏路地に入り込んだ。その間一瞬の出来事で、アルバートの日頃から鍛えた察し能力の賜物である。

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