Ep.04 英雄王の繁栄

「コレとかどうかな」


「アルバ、こっちの方が似合うよ」


 僕はアルバートに一着渡した。その服は彼には少し大きかったが、とてもいい、センスのあるものだった。


「お前はコレな!」


「これって」


「お前、髪、目立つんだから隠せるように被っとけよ」


 アルバートの手には一つの帽子が置いてあった。髪と同じ真っ黒な帽子だ。装飾は何もない、どちらかと言えば粗末なものだけど、僕は気に入った。


「ん。ありがと」


 僕はその後に自分の服も選んで、アルバートが選んでくれた帽子も買った。


「おねぇちゃん! ありがと!」


「……ありがとうございました」


 ここでもアルバートと僕はかわるがわる頭を撫でられた。アルバートは無邪気にお礼を言い、僕は少し照れながらお辞儀をする。


「坊やたちも気をつけてねー」


 店の店主は手を振る。


「ジャック、ジャック! ちょっと寄ってこーよ。広場行こうぜ! ほら、早く!」


「ちょっと待ってよ!」


 店を出た時アルバートはそんなことを言った。広場は王宮の前にあり、この街道を抜けた先にある。


「昼飯には早いしさ。昼はこの辺で食うだろ? 裏路地通って荷物盗られる危険を冒すなら、街道抜けて広場を経由した方が安全じゃん」


「そうだけど」


「ほら、ジャックは買った帽子を早く被って行こうぜ! 人が多いから離れるんじゃねぇぞ!」


「うわっ、ちょっと!」


 僕が帽子を被るのを待つとすぐにアルバートは僕の手を引っ張り駆け出した。僕は買ったばかりの帽子が落ちないように手で押さえながら必死に走る。


 グラディアエ王宮、目の前にあるのが広場だ。ここでは毎日違った見世物をしている。


「お坊ちゃんたち見ていくといいよ」


「ジャック、ジャック! ほら見て、見て、変なのー」


 変わった生き物を置く店や、面白い特技をするものやらたくさんだ。出し物、物売り、遠くの国から取り寄せた品々。


 珍しいものも多いのだ。


「アルバ。僕、あの店でちょっと買いたい」


 僕が指さしたのは、少し先にポツンとある販売屋だ。


「まぁいいけど。なに買うんだ?」


 僕はその販売屋の前に座り込むと品をじっくり見た。販売屋といってもとても簡単な路上販売みたいなものだ。布の上に商品が何個か置いてあるだけ。


「おじちゃん。僕、これが欲しいんだけどいくら?」


「坊主、お前いいもの見つけるな。それ、昨日入ったばかりの外国のトランプだよ」


「そうかい。カポデリスのトランプは見慣れているから、このトランプの絵柄は珍しいんだなとは思っていたけど、外国のなんだ? どこの国だい。もしかして――新大陸?」


「お前よく知ってるな。新大陸ってわけじゃないけど近いっちゃ近いな。これは魔族が昔から使っていた柄でな。英雄様が新大陸に行った時に広めて向こうで独自に作られたものらしい。どっかの国から回ってきたらしいんだが、わしゃその辺分からんでの」


 僕はそのトランプケースを手に取った。ちゃんと全部揃っていて今からでもゲームが出来そうだ。


「手つき上手いな」


「そりゃどうも。仕事でよくするんだ」


 カードをシャッフルする手つきはもう染み付いていて、カードを持つと無意識にしてしまうのだ。


「お前さん名前は?」


「……ジャックだよ」


「ほう、英雄様と同じ名前か。いい名前だ」


 僕はそのままトランプカードを箱に入れる。


「おじちゃん、これ値段は」


「持ってけ」


「え?」


「持ってけ。お代はいらん。お前さんにもらわれて大切に使われる。そのトランプも望んでいるよ」


 僕は目を丸くした。


「でも」


「お前さんにこいつを託すよ」


 そう言われては何も返せない。


「あ、ありがとう」


「いいってことよ!」


 おじさんは真っ白い歯を見せて笑った。僕は少し照れながらそこを去る。


「良かったじゃん!」


「……うん」


 僕はそのトランプケースをポケットに押し込んだ。


「行こ」


 アルバートの手をとる。そのまま通りに駆け出して、僕たちは王宮のそばを通り抜ける。


 白い鳥が飛んで行く。僕はそれをひたすら綺麗だと思っていた。鳥は綺麗だ。自由に羽ばたく鳥は、きっと僕の知らない国も知っている。


 だから、綺麗なのだ。

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