あたりまえの平和がこんなにも愛おしいⅡ

 ◇◆◇◆◇



「デファンスちゃん、似合うよ。可愛い」


「アルバート……、お前ってやつは」


 着替え終わった後、部屋の外で待機していた執事二人。


 アルバートは手を叩き、ロドルは頭を抱え込む。


「本日の舞踏会についてなのですが、ご来賓の皆様のお相手をお願い致します」


 ロドルが小さな紙に書かれたリストを渡し、お辞儀をした。


「……ロドルは?」


「心配ならついて行きますが……」


「そう? お願いね」


「はい。かしこまりました」


 ロドルはデファンスの隣につき、辺りをぐるっと見渡してから一言。


 迷惑そうにお調子者の邪魔者を見る。


「アルバート、シッシ! ゴーホーム、持ち場につきやがれ」


「へーいへい、執事長。お邪魔な俺は退散といたしましょうか。後でお前のところにお酒勧めに行くよ」


「酒はいらん」


 ロドルは一睨みしてからデファンスの方を見た。頭の先からつま先までじっくり流れるように見てから一言。それは本気なのか冗談なのか――、真顔で言われては判断がつかない。


「まぁ今日も綺麗だから、自信を持って行けばいい。何かあれば、僕は貴方の側にいますから」


 ロドルはデファンスの顔から一瞬だけ目を背ける。


 アルバートはそんな彼を見て一言。


「お前、踊りとかするの?」


「一応はできなくはない。昔、散々仕込まれたから」


「……へぇそう。お前ってほんと、出来ないことはないよな……むかつく」


 そういえば昔に踊りの稽古をしてくれたのはロドルだった。相手役を出来るのが少なかった為に呼ばれたピンチヒッターだった気がするが、本当になんでもできる執事である。


「そんなことより、本当の本当に、アルバートはどこかに行け。僕の権限で地下牢にぶち込んでもいいんだぞ?」


「やだ、怖〜い」


 アルバートはそう言いながらやっとどこかに行った。


 ロドルは不満を零す。


「たくっ。味見と言って酒樽の赤ワインを全部飲んだり、勝手に高級なお酒の瓶を開けて飲んだり、自分勝手にやってるくせに僕の仕事の邪魔もして……、あいつってほんとどうしょうもない奴」


「よくアルバートはロドルの近くにいるわね」


「僕をからかうのが趣味だからな、あいつは。とんだ悪趣味野郎だよ」


 ため息が聞こえた。


 そんなことを言いつつ、アルバートを魔王城に推薦して採用したのは彼だった。バトラーを探していた時に彼の紹介で来たのがアルバートだったのだ。執事としての経験もあり、諜報もできると、ようするに、仕事の腕としては信頼しているのだろう。


「では、参りましょう。皇女」


 彼に連れられて舞台に立つ。


 彼のエスコートはとても上手いのである。


 それが彼が何か別のことをする為に身に着けたものだとしても――、この完璧主義は私を守ってくれるだろう。


 だから、彼といる時は怖くない。


 どんなになじられても、彼が全てはねのけてくれるから。

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