Ep.29 一千年前の君へ
僕は絶対に勝たなければならない。
僕があいつに勝つには、誰か僕以外の者が必要だ。僕は操り人形。僕だけでは返り討ちにあうだろう。僕の本名を知っているあいつに僕は逆らえない。従者は主人には逆らえない。僕はあいつに勝てない。そして今でも。
あいつが僕に何をさせようとしているのか、今でも分からない。この意思が本当に自分のものなのかさえも全く分からないのだ。もしかしたら仕向けられた偽りなのかもしれない。
僕は、もしかしたら生まれた時からあいつに支配されていたのかもしれない。僕があの家に生まれたこと、死に物狂いで取り返そうとしたこと、実の息子であるのに養子として引き取ったこと、僕が十六の誕生日に死んだこと、そして堕天使になったこと。
僕の意志ではないこれらがそう示している。
僕は生まれて来ちゃいけなかった。
それでも僕は良かったし、存在意義が分からなくとも誰かが自分を欲してくれればよかったんだ。利用でも、買収でもなんでもいい。元から捨てられ子。それだけだった。
でも、旦那様が僕を養子として家に入れてくれたから僕はやっと居心地いい場所を見つけた。仕事は大変だったし、覚えることも多かったけど、勉強も料理もピアノもヴァイオリンも、全てやれば褒めてくれた。召使いとして過ごしたたった二年間。僕は単純に楽しかったんだ。
遅かったよ。お嬢様。
遅かったよ、もう少しもう少しだけ早かったなら。
そんな手紙書いていたことなんて知らなかった。知り得ないよ。僕はその時には死んでる。既に天界にいる。僕を見たなんてあり得ないんだ。だから君が見たのは僕の亡霊、人違いさ。例え君が視える眼を持っていたとしても。
僕はもう堕ちてしまった。
戻れないよ。君に合わす顔なんてない。でもね、僕は君に一つ聞きたいことがあるんだ。ねぇ、答えてよ。
なぜ。なぜ、君は悪魔と契約してしまったんだ。
君の娘さんに聞いたんだ。『お母さんは私を助けるために悪魔に向かった』死んだとは言ってない。亡骸は見つかってないということ。僕の契約書をアスルが持っているように、死んだ者は必ず契約書を書かされ転生するまで管理される。その契約書はアスルに頼んで何百年も探してもらっている。それでも見つからない。それはなぜか。
君は天界に来ていない。これを踏まえて僕は考えた。
もしかしたらと。なぜ見つからないのかと。誰かが君の魂を持っているのではないか、と。奥底だよ。確信などない。だから、僕は見つけて見せる。何百年経とうとも。そのために僕は何でもしよう。
例え地獄に堕ちようとも。
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