きっと今日は眠れない

「ははっ」


 彼は私の部屋の窓から声を上げた。真夜中、寝ようと寝台に座っていた私の部屋に窓から入って、そんな笑い声を上げる人物を、私は一人しか知らない。


「いいご身分だな。僕が君の依頼をちゃんとこなして、ちゃんと帰ってきたっているのに、君は今から寝るのかい。全くもって愉快愉快。僕はちゃんと君の命令を聞いたんだ。少しは寝るのを待ってもいいだろう? ふはっ、まさか。忘れたわけではあるまいに? 君が僕に何を頼んだかって?」


 暗いから――顔は見えない。しかし、どんな顔をしているのか、私には分かる。


「忘れたわけじゃなくってよ。でも、貴方、本当にやるのね」


 人間を馬鹿にしたような綺麗で端正な顔を、ぐちゃぐちゃにして、彼は薄気味悪く笑っている。


「信じられないなら自分の目で見て見ればいい。ほら」


 彼が近づいてくるのが足音で分かる。革靴の軽快な音。それはどこか楽しそうで、もの悲しい。


「ほら。お嬢さん。僕はちゃんと殺ってきたよ?」


 彼が持つ長剣には赤黒いものがこびり付いていた。


「さあ、次の依頼はなぁに?」


 悪魔がこの世にいるのなら――、きっと神さまは残酷だ。


「ねぇ。僕は悪魔だよ? 依頼はちゃんとこなすんだ」


 人がよさそうな顔をして、人を誑かし堕とすこの黒髪の少年の瞳はとても澄んでいて綺麗なのだ。


「次は誰を殺すの?」


 また彼は高笑いをする。




 A.M.1365.7.4

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