Ep.10 裏通りの襲撃

 手帳の中身はラブレターだった。


 ロドルは教会を出て、街を歩いていた。アヴィも居なくなってしまったし、エクソシストたちが彼女を探しに行った間にメーアから頼まれた買い物をしようと思った。そっと抜け出すのはお得意で、誰にも気づかれていないと思っていた。


 デファンスが後を付いているとは思わなかったが――。


「ロドル、どこいくの?」


「僕の行きつけの店だな。紅茶の専門店だ。店主が昔からの知り合いで僕はそこの紅茶が一番だと思っている」


 追い返すのは今更面倒で、デファンスにどこかに行かれても面倒。随分歩いてしまい教会に送り返すのも面倒だ。


 それにデファンスがいなくなったとして、魔王に怒られるのは執事の自分。迷惑を被るのは自分。魔王城で追い返せばよかったものを、たまには連れてってもいいかなと思った自分が馬鹿だった、と今更後悔しても遅い。


「安いって事?」


「いや、反対だ。法外に高い。お茶にのめり込んだ常連客が破綻したとかまぁよく聞く話だな。あれはぼったくりの犯罪級だ」


 ロドルは懐に入った札束の枚数を出さずに数えた。


「あの人は商売が上手すぎる。どんなに高くとも『貴族様の御用達』と言えば客がいくらでも払うのを知ってるからな」


 多分足りる。


 ロドルは裏路地に入った。


 その前にちょっと試したいことがある。


「デファンス」


「え? 何」


 ロドルは後ろの方に意識を集中させる。


 ――二人、いや三人?


「走るぞ」


「きゃっ!」


 ロドルはデファンスの手を引っ張り、裏路地の更に奥へ。曲がり角を曲がりそこで息を潜めじっと待つ。


 段々と足音が近づいてくる。


 あと二歩、一歩。


 懐から紙に描いた魔法陣を取り出した。


「お兄さん、そんな武器を抱えて何か僕に用かな」


 デファンスには幻影魔術を施し、奴らには見えていないはず。実際は足元にいたが、そっと小声で告げる。


「――ここに居て。ちょっと片付ける」


 ロドルは長剣を取る。黒い刃が怪しく輝く。


 久しぶりに使う愛剣の名は――魔剣ゲシュテルン。


「黒髪の堕天使。お前に用がある!」


 黒いローブの男二人。フードで顔は見えないが、声からして二十代後半くらい。周りに人通りはない。歩いているのは僕か、男二人ぐらいのものだ。


「周りは廃墟。住んでいるものは誰もいない、か」


 襲撃するにはもってこい。周りに被害は及ばず、誰にも見られない。相変わらずあつらえ向きの貧民街ファーストストリート。表から一本入ると繁華街から一転して広がるこの道は保安官などいない。


 よって、ここでは何をしても誰にも見られない。


「お前は教会か? それとも?」


「答える義理はない」


「あ、そう」


 デファンスはロドルの近くに隠れている。もし、こいつが僕のことを話したらきっと聞かれてしまう。


 その前に仕留めよう。


 無駄な魔力は使いたくない。


「『我が身に与えよ。


 ――我が真名に誓い、かの剣に賜わる源の元に』」


 詠唱で魔力は抑える。


 僕の愛剣ゲシュテルンよ。


 力を貸してくれ。

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