Ep.11 明るすぎる幽霊は昔からの友達
「ジェイ。さっきの襲撃さ」
「僕一人で平気だったのに……余計な事を」
――遠くで声が聞こえる。
デファンスが薄ら目を開けると、ロドルの他にもう一人いるのが分かった。いつの間に寝ていたのだろう。寝た記憶はないのに。
「なんでそんなに怒ってるんだよ、助かったんだからいいだろ?」
「別に」
「ごめん、ごめん。悪かったって」
遠くにいるロドルはムスッと頬杖をついていて、隣の少年に悪態をついている。少年はにこにこと笑顔で人懐こい顔をしている。
「ちょっとしたお遊びだよぉ、でもさ、この二人は本当にお前を目当てに寄ってきたんだよ? それをいち早く見つけてそいつの体借りて操ってたのは俺だけど、こいつらも元々は襲撃しようとしてたしさぁ。許してちょ」
ロドルにゴマすりするその少年。見たことがない少年だった。ロドルの知り合いなのだろうか。
年はロドルとさほど変わらない。
「ロドル、この人誰?」
ロドルに声をかけると二人はやっと私が起きたことに気付いたようだった。
「皇女様――っ」
ロドルが声をかけるよりも早かった。すかさず駆け込んだロドルをふっ飛ばしロドルは壁に叩きつけられる。
鈍い音と同時に「グハッ」という咽び声。
「おー! 起きた? 可愛い! お前こんな可愛い子と二人で歩いてたのかよぉ! いいなぁ、羨ましいぞ! 紹介しろよ!」
彼はペラペラとおしゃべりをやめない。デファンスの周りをぐるぐる回り思わず唖然としてしまう。
ロドルは「僕が……何をしたっていうんだ……」と壁にもたれ掛りながらむせている。荒い咳払いをして、よくあれで平気――、でもないか。瀕死だ。
「あれぇ? 大丈夫? 死んだか――」
少年はケラケラとロドルの様子を見て笑う。ちっとも心配しているようには見えない。
ロドルは少年の顔を鋭い目つきで睨んだ。
◆◇◆◇◆
しばらくしてからロドルが回復してきたので彼の自己紹介が始まった。そわそわとせわしなく動いている少年にため息を吐くのはロドルだ。
ロドルは心底嫌そうな顔で彼の紹介をした。
「こいつは『フィオ』ていう、僕の友達だな」
「ちわっす! 生まれはカポデリスの貧民街、つまりここの裏路地! 家が貧しくって、貧しくって、飛び出したら食べ物なくって死因は行き倒れッス! 今はここで幽霊やってる! こいつとは三百年? 四百年だっけ、かなり前からの友達。よろしく!」
明るい自己紹介だ。二、三点突っ込みたい。
「それよりお腹すいたぁ、お前パンとか買ってきた?」
「これでいいならやる」
ロドルとフィオは御構い無しにお喋りしている。
「あれ、私はなんで寝てたの」
そういえばそうだ。聞くのをすっかり忘れていた。
「ちょっと、しくったから催眠魔術をかけて寝てもらった。――すまない」
すぐさまロドルが答える。フィオはパンを口にくわえている。噛み砕いて飲み込むとフィオが話し始めた。
「この下手くそが、周りの建物とかおじょーちゃんとか巻き込みそうだったし。俺が出来るのは取り憑いて体の自由を奪うくらいだし。建物壊したらさすがに人集まってくるだろ」
「魔力の調節がむずいんだよ。相手はただの人間。殺したらなぜ襲撃に来たのか分からないからなぁ」
ロドルの物騒な言動はさておき、その襲撃した二人はどこにいるのだろう。周りを見渡すと、端っこに縛られ柱にぐるぐる巻きにされているフードの男達がいた。
「舌噛み切って死んじゃいましたけど」
と、ロドル。
「ありゃ気絶してるんだよ。ちゃんと脈見ろよ」
と、フィオ。
ロドルはフィオの声にむっとした顔。ムキになっているのはいつも冷静沈着な彼にしては珍しい。
「誰のせいかな」
「お前の悪魔みたいなじりじりと追い詰めていくあの尋問のせいだよ」
「指を詰めるかって聞いただけなのに」
「お前には人の血が通ってないのか」
黒ローブの男の下には小さな血だまりがあった。寄って脈を見ると確かに生きている。口から血が垂れているからロドルやフィオが言うように舌を噛んだんだろう。
「なぜ襲撃を?」
「さぁ」
ロドルは無表情だった。
「お前の客なのは確かだよな」
フィオがそう言うとロドルは黙った。
おそらく図星なのだろう。
「おおかたの検討はついているんですがデファンス様には教えられません」
「冷たいやつでやんのー」
「ダメだよ、フィオ」
ロドルがキッと目を吊り上げ、しばらくコソコソと二人で話していた。私は置いてきぼり。つまらない。
本当につまらない。
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