僕がこの世で一番嫌いな日にⅤ
「ロドルーッ!」
自分の部屋の外で壁を叩く音。僕はその音で目を覚ました。うるさい。うるさい。しかも壁を軽く叩くのではなくて本気で叩いているから重低音が響く。
「デファンスさま……なんですかぁ……」
薄ぼんやりと目を開け、よたよたとクローゼットに移動する。鏡を見ると黒髪が跳ねてくるくるしている。
窓からは陽の光。リアヴァレトも常夜の森以外は陽の光が当たるようになった。元々そんな地形だが、やっぱりカポデリスよりは陽が弱い。そしてリアヴァレトにはカポデリスのように朝起きて夜眠るという習慣がない。元々夜にだけ活動する者もいるし、まれに寝ない者もいる。今までは常に夜のようだったのだし、それは当たり前といえば当たり前。リアヴァレトとカポデリスの時間軸は正反対で、こちらが夜なら向こうは昼。逆も同じく。
今は何時なのだろう。
そしてふと思う。
「あれ? なんで寝てたんだ……?」
ゼーレの部屋に行ってから、その後の記憶がうすぼんやり。何があったっけ。ダイニングに戻ると、半分くらいの人が起きていてデファンスやメーアは寝ていた。
起きていたのはお酒で酔った使用人達だった。
そこまで考えて嫌な予感。
「……気持ち悪ッ……」
急に込み上げてきて備え付けの洗面所に走った。
ちょっと待って、まさか……。
すかさずデファンスが居る外に出て、ダイニングに走った。
すると、
「執事長! お誕生日おめでとうございますッ!」
入ってきた瞬間クラッカーが鳴らされた。紙テープが舞う中、一人を探して声をかけた。
「アルバート! お前、また僕に無理酒したなぁッ!?」
声をかけてきた彼のネクタイを握り、揺さぶった。だが、された彼は白々しく反省など微塵をしていない。
「だって、執事長お酒弱いし、すぐ眠くなって口が滑り易くなるの面白くって面白くって」
「だからってなぁッ!」
「良いじゃないっすか! 一人でカポデリスに帰るのも寂しいでしょー? ほらほらお祝いッ、お祝いッ」
抵抗も虚しく、強引に椅子に座らされ、抵抗したら縛られた。
「ロドル様がぁー、立って仕事してたらしゃれになんないですよぉ」
「だからって縛ることないだろう!?」
その答えには皆一致で「何するか知れたものじゃない」と答えた。
うぐぐ……。
手が使えないから魔法陣だって出せないじゃないか。
「デファンス、ちょっと来……うわぁっ! 何するんだよ!」
「ダメですよー、おしゃべり魔術は封じなきゃっと」
一人の使用人が僕に目隠しをした。エクソシストには気づかれなかったけど、長年にわたり過ごしている彼らの目は欺けない。
アレは口で魔術を使っているのではなくて目線。目は口ほどに物を言う、の応用魔術。だから目隠しされれば使えない。
「もう嫌……」
「もう少しですからぁー」
かちゃかちゃと音がした後数分。
「いいですよ」
目隠しが外され、手の縄が外された。
「デファンス様も!」
使用人が一声すると、入り口で唖然とするデファンスがいた。首を傾げて使用人が耳元で囁くと納得したような顔をした。
「……貴方、今日誕生日だったの!?」
「えっとまぁ、そうですけど……僕を呼びに来たということは知ってたのではなくて?」
「確かにこの時期だった気もするけど、呼びに行ったのは頼まれたからで!」
周りの使用人はニヤニヤと笑っている。しめしつけていたのは周り。何をしてるんだ……だからゼーレ様に愛想尽かされるんだぞ!?
「それよりなんだい……あの」
「執事長の倉庫の中身を勝手に借りて、ご飯作ってみました。執事長には敵いませんが!」
テーブルの上には様々な料理。サンドイッチが多いのは昨日のせいか。僕の倉庫を使ってとの事で、あのエゲツない食材は使われていない。使っていたらぶん殴るところだった。
次々とメーアやゼーレまでもがダイニングに来た。メーアは椅子に縛られ動かなくされているのを見て吹き出し、ゼーレは「なんか悪さしたのか」と呟いた。
二人は床に散らばった紙テープを見て、椅子に縛られている自分の執事を見て何かを思い出したようだ。
「『本日の主役、我が執事長』と書いたタスキ、どこに行ったんだー?」
「ええっ!? 要らないよ、そんなの! というより早く解けェッ!」
椅子ごとがたがたと動くと、縛る縄が増えた。
「お前、誕生日でお休みするなら言えばよかったのに」
「ゼーレ様に言えば周りの使用人にも伝わりますよね? そうするとこんな事になるんです!」
だから誕生日だと言うのが嫌だったんだ。きっと無理酒された時にポロリと言ってしまったのだろう。決して言わないし、飲まないのに。
「未成年にお酒は違反だぞ!?」
「まだ言ってる。執事長が不老なのみんな知ってますよぉー」
不老言うな、使用人を睨んだ。
「まぁまぁ、それより何歳になったの」
さりげなくメーアが聞いた。
「えっと、もう数えてないですけど……って! また聞き出そうとしたなッ!?」
僕が縛られていたので、準備は使用人達が行っていた。
こっそりと、いつも袖口に隠している短剣を出そうとしたが、すぐさま使用人に見つかった。
「おかしい……――主役のはずなのに目の前のご飯が食べれない……」
すると使用人の一人が嬉々とした表情でこう言った。
「あーん、しますかぁ!? あーん!」
やめてくれ。絶対にやめてくれ……。
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