Oh ,you're always a laughing in the dream.Ⅱ

「ロドルー、ロドルはどこー?」


 魔王城に響き渡る声。エントランスホールを抜けて、執事の部屋の前に立った。だが、何度叩いても声は帰って来ない。ドアが無い彼の部屋からは物音一つ聞こえて来なかった。


「ドア、なんでつけないのかしら! もう。不便じゃないのかしら」


 だが、その彼の使い手は魔法陣だ。一瞬で空間を移動する彼の武器はドアが無い部屋だろうが侵入出来る。そして各地の優秀な魔術師が集まったこの城でも身一つでそんな芸当ができるのはただ一人なのだ。そのため彼一人しか入れないこの部屋の中を私は見たことが無い。見ることができない。だって入ることさえも出来ないのだから。


 一回、何人かの魔術師に魔法陣を作ってもらうことを頼んだが、彼らも正確にそこの部屋だけを狙って空間を開くことは出来ないため、彼の隣の部屋に飛ばされた。あと少しだったのだが、それを見つけた彼は鬼の形相だった。


 あれ以来、そんなことを考えようものなら……、何をされるのか分からない。けれどだからと諦める彼女ではない。


「入るな、と言われたら入りたくなるのが私デファンス皇女様の常なのよ」


 デファンスはそう言ってニヤリと笑った。


「まずはロドルを見つけなきゃなぁ……。どこだろ」


 たまに出掛けて行ったり、キッチンにいたりはたまた別の場所にいたり。様々なとこに出歩く彼を探すのは困難を極める。これはお母様に聞いた方がいいかもしれない。それと言うもの、彼は必ず出掛ける時に彼女に告げるからだ。


 そう思いながらまたエントランスホールに来た。


 やはりそこに彼女はいた。


 何かを持って向こうから歩いてくる。


「お母様。それなぁに?」


 駆け寄ってメーアに聞く。彼女が持っていたのは一枚の毛布だった。あったかそうな茶色いそれをメーアはクローゼットから出して来たのだろうか。


「あぁ、これね。ふふっ……」


 ニッコリと笑うメーア。


「おねむの誰かさんにかけてあげるのよ。珍しくソファで寝てしまったみたいだから。普段部屋に引きこもりだからかしら? ちっとも起きないの」


 メーアはそう言って歩いていく。デファンスもついて行った。窓の近くの大きなソファに体を埋め、すやすやと寝息を立てて彼はいた。


「ロドル!」


 デファンスがずっと探していた、執事はただいま夢の中。揺らしても叩いても起きる気配は全く無い。


「ね? 珍しいでしょ。いつもはどんなことがあっても部屋の外で寝ないのに」


 メーアは彼に毛布をかける。


 ロドルは寝返りを打つ。毛布の端を掴み、そのまま包まった。デファンスも彼が寝ているところを全く見たことが無い――、とは言わないが、彼がこんな行動をするのは珍しい。


 それほど疲れていたのか……。


「私もこの子が寝ているのは猫の時以来かも。黒猫だと安心して寝るのに、人型だと絶対寝ないんだもん。隈が出ようが欠伸をしょっちゅうしようが、絶対」


 ロドルの真っ黒い髪が風に吹かれている。


 むにゃむにゃと口元をもごもごする彼。なんとなく猫っぽい。ソファに入り切らないので身体を丸めるような格好になっているのもあるからだろう。


 その時だった。


「お……じ……ょ…………ま」


 微かに開いた口からそんな声が漏れた。


「寝言?」


 デファンスは首を傾げた。


「お……じょ……さま」


 それを聞いたメーアはデファンスの耳を塞ごうとする。


 だが、遅かった。


「ごめんなさい……僕は……ごめんなさい…………貴方を…………」


 ロドルの目から一筋涙がこぼれていた。そして彼は目を覚ました。ポカンとするデファンスにメーアは何も言わない。起き上がったロドルはかかった毛布を見て、隣のデファンスを見た。


「デファンス様……もしかして僕は何かを呟いていましたか」


 ロドルは苦笑しながら問いかける。デファンスは首をぶんぶん降って弁解した。


「聞いてない! 聞いてないから!」


「ふふっ……そうですか。聞いてしまったのですね。ならば『忘れてください。今の言葉全てを』」


 ロドルがそう告げるとデファンスはたちまち眠りに落ちた。倒れてくるデファンスを優しく受け止めたロドル。


「全く僕としたことが。ソファで寝てしまうなんて……」


 布団を畳み、メーアに笑う。


「すみません。最近忙しくて寝ていたようです。毛布をかけてくれてありがとうございます」


 そして深々とお辞儀をした。メーアは彼の行動に何のリアクションも受けなかった。その代わりに。


「いいのよ。私としては貴方が寝ると必ず呟くについて詳しく聞きたいところだわ。絶対教えてくれないんだもん」


「それは出来ませんよ」


 ロドルは目を釣り上げ言った。


「話した後、貴方の記憶を消してもいいのなら好きなだけ話しましょう」


「まぁ、怖い。怖い」


 メーアはそんな言葉をかけられたのにも構わずクスクスと笑っている。


「貴方の言うお嬢様がデファンスじゃないのは分かっているの。貴方はデファンスが生まれるずっと前から彼女のことを夢に見ている。私と会うずっと前から……もしかしたら私が生まれる前の方なのかしら?」


 ロドルは怪訝そうな顔をした。


「魔族は目上の者に敬語を使う習慣はないの。そういうのは――、人間だけの習慣ね。魔族は身分ではなく力だから。上下関係は常に変わるのよ。だから、権力を奪いさえすれば貴方はゼーレよりも上に立つことは出来るでしょう。だけど貴方はいつも誰かの下でその相手に敬語を使う。昔は、いえ、貴方が猫の時はいつも敬語じゃなかったでしょう。それが隠れ蓑だったとしても、貴方と私は対等だったでしょう。私は魔女だから人間のことは詳しくないけれど、人間でもそのというのは確か上流階級の者しか使わないんでしょう? なのに――貴方って私と初対面の時、確か使っていたでしょう。だから貴方って」


 魔族が使わない敬語を、相手を敬い忠義を尽くすということを、魔王城の使用人に教え込んだのはロドルだった。かつて、それは人間だけの習慣で魔族は使ってはいなかった。彼が教えたから今ではデファンスなどはそういうものが身についてはいるが、本来魔族にそういうものは無い。


「メーアにはかなわないよ。僕」


 そう黒猫は誰にも気づかれないよう呟いた。




 Oh ,you're always a laughing in the dream. But, I'm in the painful it is most. I never slept outside of my room, I do not want to be heard and that the saying in sleep talking about you. And I do not want known to the looking desperately clue that you. Will I think you're an idiot?  I have been looking even more hundreds of years. Not found. Nevertheless good. It is still looking for you, because you're all me.




 嗚呼、夢の中の君はいつでも笑っているね。でも、僕はそれが一番辛い。僕が部屋の外で絶対寝ないのは、僕が君の事を寝言で言うのを聞かれたくないからだ。君を探し続けているのを知られたくないから。馬鹿だと思うだろう? もう何百年も探し続けている。見つからないよ。それでもいいんだ。


 君を探し続けるよ、だって君は僕の全てだから。



 A.A.1365.10.15



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 平成二十六年九月十五日書下ろし

 平成三十年四月一九日修正 

 令和三年七月三十日再修正

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