開戦Ⅴ-①
「ロドルぅー、どこ!」
デファンスは諦め、いや飽きてきて、どうやら扉を片っ端から開ける作戦のようだ。さっきから教会の中を走り回り、扉を開けては閉めている。止めてもいいが、さっきの暗号解いた時の頭の回転の違いを見るに考えがあるのか?
いや、多分無い。
そんなことで、ため息を吐きながらデファンスの理性となるべく、彼女を追いかけているのだ。こうしてないと、デファンスの暴走は止まらないだろう。
「うわっ!」
デファンスが後ろに飛び上がり、部屋から出て来た。彼女を追いかけ、斜め前の廊下突き当たりに走る。
一応のため、クレールとエルンストを呼んだ。
「この部屋ー? あぁ」
「クローチェ様の部屋だな」
二人はそう言って扉を乱暴に開けた。
扉は壁に当たり、けたたましい大きな音を立てる。
「ちょっ……。なにしてるのッ!」
デファンスが声を上げると、二人は同時に振り返りニヤリと笑う。悪戯を思いついた子どものような顔。その顔には、はっきりと『好奇心』という三文字が書いてあった。
「だってー、クローチェ様な……」
「絶対に部屋に入れてくれないし」
「今がチャンスっ!」
顔を見合わせ、そう叫んで二人で一斉に入っていく。
「さぁ、いざ行かんっ!」
興奮しているのか口調がおかしい。二人は、机からクローゼットから手当たり次第に次々と閉じた引き出しやドアを開けてゆく。私達は呆然とその様子を見ていた。
部屋は床に白木のフローリング。
壁も真っ白で全体的に白を基調としているようだ。
壁に寄りかかった本棚と机、ソファー、コートかけは茶色でシンプルな作りをしている。備え付けのクローゼットには服が数着入っていたが、エクソシストの制服と見られるコートは中には入っていなかった。
窓の綺麗な藍色のカーテンが風に揺れ、机の上に置かれた本の数ページをめくっていた。どの本も悪魔や神に関するもの、多分ここにある本棚全てがそのような内容なのだろう。壁に睡蓮の絵画。金の額縁に入れられそれが異様な存在感を示している。
そして、その近くの壁に斜めにかけられたおそらく銀で出来ていると見られる十字架。窓から入った陽を微弱に照り返す。
「これは……?」
近づいて見る。デファンスから前に聞いたとおり、近づいてじっくり見ても平気だった。それは自分の身長の腰のところまで来るほどの長いもので重さもかなりのものだろう。
何に使うのだろう?
魔族の私に効かないものをなぜここに置いてあるのか。
「どうしたー?」
気づくとクレールが顔を覗かせていた。ヒッと悲鳴をあげてしまい、クレールがごめんごめんと謝っている。
「ごめんっ! 何度も声をかけていたのに、上の空だったから! 心配になって! 驚かせるつもりじゃ……」
顔の前で手を合わせ、頭を何度も下げている。
「大丈夫だから! なんか見つかったの」
話を切り替えて聞いてみる。
この流れでこの十字架の事を聞いてもいい。しかし、魔族の私がこの十字架を『何に使うのか』と聞いて、変な顔をされるのは嫌だった。それで正体がバレてしまうことも考えられる。
「あぁ……。見てみ?」
意地悪そうな表情でクレールは、にやりと笑った。
クレールが持つ写真には一人の少年。頭に一匹の烏、少年は黒いベストを着て無邪気な笑顔を見せている。背景はここの教会のようでチャペルが後ろに見えていた。
写真はだいぶよれていて全体的に茶色く変色している。
これは『何年前』の写真なのだろう――。
「誰……?」
デファンスもにやにやしている。それで私はそれがさっきから皆がいうクローチェ――、彼の少年時代の写真だと分かった。
「ちなみにこれが今の彼」
デファンスがこっそり提示する写真。
「面影ないね」
デファンスの顔を見ると耐えきれず噴き出していた。
「あ、そうそう……。セレネも見つけた?」
クローチェの写真はエルンストがクローゼットの奥の奥から見つけたものらしい。古ぼけた写真が本の隙間に挟まっていたという。そして、見つけたデファンス、クレール、エルンストの三人で『面影ねぇっ!』と叫んでいたらしい。
それを私に見せてきたわけだ。
いつの間に何をしているのだ。私は目をズラしさっきまで見ていた十字架を見る。こっちはこれが何に使われるのか気になっていたというのに。デファンスも視線の移動に気づく。
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