開戦Ⅳ

「ねぇ? ゼーレ、これどう思う」


 魔王城のある一室。


 メーアは埃の被った倉庫を掃除すべく、ゼーレを手伝わせてこの場所に来た。周りには沢山の古びた書物の山、読めない文字が並ぶ本もある。昔使われていたとされる古文書、歴史書などの重要書物が所狭し。


 入り口には魔力結界、扉は二重構造。


 どう考えたって怪しい、この倉庫として置かれていたと思われるこの部屋は、今日ゼーレが魔法で切り開いたところにたまたまあったものだ。こんなものがあるだなんて知らなかった。


 冒険と、この城を遊びまわっている私でさえも――。


「ここは……。旧魔王城の地下といったところか? こんな場所があるなんて……」


 ゼーレが舞った埃に咳き込む。よろっとよろめいて本棚の方にもたれかかった。その瞬間、狙ったように足元に落ちた分厚い本。


 汚れ、古びた藁半紙がパラパラとページを開く。


 ゼーレがそれを拾った。


「なんだ……? えっ、」


 なにか見つけたのだろうか。メーアも覗き込む。


「ただの本じゃない。どうしたの」


 よく読んでみろ、とゼーレは顎で指示をする。


 押さえられたページの端から隅々までじっくりと読む。


 題名は『決戦』。手書きだったのだろう。所々薄く消えかかった文字が並んでいる。文章の先は魔法で保護されているものを無理矢理、もっと強い魔法で封印されている。人間が使った魔法に魔族の者が被せて使ったのだろうか。かなり複雑なものがかけられていてこの時点では読むことが出来ない。


「暗号……、封印……、なにかしら。もっと違う気がする」


 ロドルがいたら分かるかもしれないのに。今、彼はデファンス達といるはずだ。今頃、何をしているのだろう?


 私が呟くとゼーレは、しばらく考え始めた。


「数式……文字式」


 ゼーレはそう呟くと、地面に円を描き文字を書き込んでいった。円の中が真っ黒に読めない文字で塗り潰されていく。円の中に二重の円、満月を形付られた模様の他にも色々あったが、それらを全て描き込み終わると、ふぅと息を吐いた。


「ゼーレ、これは?」


「昔、聴いたことがある。古くからの魔法。親に使い方を聞いたんだ」


 ゼーレがそう言うのと同時に、地面から真っ赤な光が上がる。ゼーレはその中心に例の本を置いた。光は更に強まり、本の文字がくっきりと浮かび上がってきた。


 炙り出しのようにじんわりと――。


「魔法陣……」


「あぁ、この魔法は数ある魔法の中で最も魔力を削るとされている。それほど難しいとも、高位の者しか扱えないとも言われているな」


 ゼーレは淡々と答える。そして、浮かんだ文字を読み始めた。


 目を滑らせ、ある一点で止まる。


「え、これって……」


 メーアは思わず目を逸らす、信じたくなかった真実。


「なんで、――ここに?」


 その文章に添えられた肖像画。その質問を遮り、ニヤリと笑う。


 どうして、こんなところで彼の顔を見るんだろう。

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