開戦Ⅲ

「エルンストぉー、なぁー、お前だけが頼りダァッ!」


 エルンストも捜査に加わったのはお昼過ぎ。クレールがエルンストを肩車して叫ぶ。


「あのな……、クレール。なんで私が上なんだよ、普通お前が上だろ、なんでなんだよ」


「えぇー、エルンストは上がいいかなぁー、と思って」


 元々背の高い二人であるが背の高さはエルンストの方が十センチ近く高い。なぜか、という理由はクレールの顔を見ればすぐ分かった。悪戯をする子どものような顔が、その証拠。


「いつものことだから気にしないで」


 デファンスが小声で耳打ちをする。あぁ、と気の抜けた返事をしてただ呆然と見つめる。「エクソシストだよね?」と、デファンスを見ると舌を出して笑い返された。二人の首にはロザリオ、ここにいる人のほとんどの首元で光っている。多分エクソシストの証の一つなのだろう。


「こんなのでいいのかな……?」


 クレール達がただ今、肩車をしているのは屋根に登ったロドルを探すためだ。エルンストが顔を真っ赤にして、肩車されているのはそのせいで……。


 どうやら、屋根の一番低いところから探すようだ。


「エルンストぉー、いる? いなかったら次のとこな」


「クレール、降ろせ、降ろせ」


 肩車の上でガタガタ揺するエルンストに、クレールは仕方ないと諦めるような顔をした。


「エルンスト、教会の中央行こうぜ、そこ行ったら降ろす」


「クレール、今度雑務、手伝ってもらおうか」


 えぇー、とクレールが大声を出す。


 二人は肩車のまま、中央に歩いて行った。私達はそれに続く。すると、デファンスは急に思い出したように、大きな声を出した。


「あ、そういえば。クローチェはどこに?」


 二人は肩車のまま振り返った。


「クローチェ様なら、今は」


「うーん、あんまりな」


 なんだかごにょごにょと誤魔化されている気がする。


「もう! なんなのよ! ハッキリして」


 デファンスがそんな二人に声を上げた。


 デファンスは誤魔化されるのが嫌いな節がある。それは、城で噂される自分の話が嫌いな、生まれつきの癖というかトラウマというか。一言ではいい表せない複雑なもので――。


「そうだな、仕事か? どうやらリアヴァレトのある場所に遠征中のようで」


「大聖賢からの命令らしい、それじゃ断われないよなー」


 クローチェ? 誰なのだろう、デファンスに目で訴える。デファンスはエクソシストの一人だと教えてくれた。


 どうやら助けてもらった人とは、その人らしい。


「大聖賢って?」


 デファンスが二人に尋ねる。


「俺らを束ねる一番偉い人から、俺達に仕事を貰ってきて、それを振ってくれる……いわゆる依頼者? そんなとこ」


 クレールが教えてくれた。


「でもさ、あの人、昔と雰囲気変わった」


「あぁ、操り人形みたいな言動だしな」


 二人はそう話しながら歩いていく。


 肩車のままでよく歩けるものだ。




 ◇◆◇◆◇




「屋根にはいないな……」


 エルンストの独り言。やっと肩車から降ろされエルンストは地面に降り立ち深呼吸をした。


「あとは教会の中か?」


「えっ、教会の中?」


 クレールの言葉を遮った。ロドルも魔族の一人だから教会の中に入ることは……。あ、いや。ここにのこのこと、ひと目を盗んでは遊びに来ている――、皇女様がいた。


 デファンスを一瞥。


 デファンスは、「何?」と首を傾げている。


「いや、別にー?」


 デファンスがこんなところに顔出すせいでロドルの機嫌はいつも悪いんだ。


 執事のロドルは私にめっぽう優しい。だが、最近は敬語で紳士な対応の中にデファンスに対する苛々した口調が目立っていた。露骨に出しているのに、自分で気づけないくらいだけど。


 でもまぁ、最近は夜、私達が寝た後に出掛けることが多かったから少なくはなっていた。


「ロドルが見つからなかったら今日もパン一個だね」


 そんな意地悪な私の言葉に、デファンスは憤る。


「……忘れてたぁ! 探さなくちゃ、あの執事許さん!」


 そう叫んで教会の中に走っていく。迷わず走っているところからやっぱりここに通っていたことが分かる。


 はぁ……。私は深いため息を吐いた。

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