第34話 復活

 オズチ様の住処を知っている者は少ない。オズチ様は、密葬されることになった。火葬は、火事が原因で死んだみたいで嫌だったので、土葬されることになった。龍の里からの出席者は、砂金探査集だったメンバーとサクラ、カブ爺、マナミ、スズ、カイト、バップである。MG2とニナは遠慮した。里の者は、多くの神聖林の動物に囲まれたが、物おじする者は、一人もいなかった。


 多くの動物の鳴き声や、うめき声、人の鳴き声は、生前のオズチ様を知る者たちばかりだ。梟のミミは、夢見巫女の神社がある紀の国に出かけていて間に合わなかった。代わりに、梟の長のヨキの顔が見える。


 立一が立ち上がった。


「主様を守れなかったのは、悔しい。だが、最後に里の祭りを楽しんでくれた。主様は、わしに、神聖林の長になれと言った。みんな、ついてきてくれるか」


 立一の話を理解できる長たちが、一族に、立一がボスだと宣言する。ざわざわする声が聞こえたが、誰も異議を唱えなかった。


「主様を埋葬する。その前に主様の顔を拝め。毛に触れ」


 多くの動物たちがオズチ様に触った。そして、住処の楠木の前に深く掘られた穴に埋葬された。




 オズチ様が埋葬されたその晩。マナミは、夢の中で、光体になって神聖林に向かった。神聖林の入り口には、いつものようにコンが待ってくれる。マナミは、もう、自分で飛べるのに、コンの首輪を握って林に連れて行ってもらった。コンは、神聖林で、一番速く走る。林の木々が、瞬く間に後ろに流れて行った。


「コン、オズチ様の所に行くの」

「わふっ」いつものことでしょと、コン。

「そうだね。いつもそうしているもんね」

 マナミの悲しみは全くいえていなかった。


 クスノキに着いて、中心にある老木を見ると、いつもより青く光っていた。この老木に洞がある。周りの若木が、この老木を支えているし、火事からも守った。


 コンがぐいぐい、洞の中に入っていくので、マナミは躊躇した。オズチ様を思い出すと悲しくなるからだ。しかし、コンに押し切られた。


 洞の中には月明かりが入っていて、青く輝いている。そこに、超高級なじゅうたんを身にまとったオズチ様が寝ていた。


「オズチ様?」

「ぶふぉ、もう、転生したか。早いの。なんじゃコン、マナも、こっちに来んのか」

「コン」

 コンは、いつものように、オズチ様のお腹の毛にじゃれている。


「オズチ様は死んで・・・」

「死んだの。光体だけになってしもうた。じゃが、額の傷は、残っとるじゃろ。どうじゃ、かっこええじゃろ。ブフォ、ブフォ、ブフォ」

「そんな、生き返るなんて」

「死んだ、言うとるじゃろ。ヤズナは、無事か」

「はい、やけどを負いましたが、元気です。里で治療しています」

「そうか、わしが、もっと早く死んどったら、被害が少なかったじゃろうの」

「そんな、生きていてほしかったです」

「ぶふぁ、まあ、マナとは変わらんじゃろ。これが、3000年生きている言う事じゃ」

「じゃあ、触れるんですね」

「さわってみい」

 マナミは、オズチ様の毛並みを撫でた。

「ほんとだ。いつもの毛並み」

「当たり前じゃ」

 マナミは、泣き笑いしながら、オズチ様に抱きついた。

 いつもだと照れて、「わしは、ここ一帯の主なんじゃ。かまうな」と言うオズチ様も、今日だけは大人しくしてくれた。



 一通りオズチ様のじゅうたんを堪能したところで、父親の立一が、オズチ様の密葬で、名実ともに神聖林の長になったことを報告した。そして、火事の時に、光の巫女に遭遇したことも。オズチ様は、死ぬ前に一通り準備出来ていてよかったと語った。


「オズチ様が殺されたとき、私、光色で、犯人を殴ってしまったんですけど。あの、ネロっていう人は、どうなるんですか?カイトは、捕まえろって言ってましたけど、逃がしてしまいました」


「まずいことになったの。ネロの基礎人格は、今の人格言うことになる。生前の記憶はもう、助けてくれん。一番いいのは、今のネロを捕まえて改心させ、罪を償わせることじゃが、逃げられたんじゃろ」


「カイトもそんなことを言っていましたが、ネロは、MG2の元マスターだったコロニー人の孫だったんです。とんでも科学で作ったクルーザーで逃げられてしまいました」


「ようわからんが、必ずネロは、お前さんたちに絡んでくる。マナとは限らん。4人の誰かにじゃ。あれは、虚無感の塊じゃ。そのきっかけになった光体の眩しいお前らを勝手に嫉妬して何かしてくる。その時捕まえるんじゃ」


 マナミは、今の話を心に刻んだ。


「それで、どうじゃった。わしの肉はうまかったか。なんせ、ほとんど、さつま芋でできた肉じゃぞ。まずいわけがない」

「何言っているんですか。主様を食べるわけないじゃないですか」

「わふっ?」

 マナミの大声に、コンが顔を上げた。


「それが、自然の摂理いうもんじゃ。ぶふぉ、ぶふぉ、ぶふぉ」


 さっきまで、シリアスでいた私が、ばからしくなる

 私は、精霊という生き物がわからなくなった。


 でも、、死を笑って吹き飛ばすなんて、素敵なことかもしれない


「オズチ様は、何回ぐらい現実の体で生きているんですか」

「そうじゃのー。わしは結構少ないぞ。なんでか、現実に生きると寿命長いし。ソラなんか、ずっと現実に生きているから、すごいんじゃないか」

「そうなんですか」

「ソラは、光体でいる時の方が短い。その代わり、夢で空を飛ぶ」

「私と一緒」

「今度白門島に行ったら、友達になりなさい。気が合うと思うぞ」

「はい」

 これも心に刻んだ。私は、夢で見聞きしたことを忘れてしまう。私は、久々に、長い時間オズチ様とおしゃべりした。 



 翌朝、夢から覚めると、スズと、おばあ様が私を覗き込んでいた。あんな大変なことがあったのに、どうやら、私は、にやにやしていたらしい。スズと、おばあ様は、私の神経のたが外れたのではないかと心配した。  


「まなみ、マナミ、起きなさい。朝ですよ」

「姫様、大丈夫ですか?」


「おばあ様、スズ、聞いて。オズチ様が、光体で復活した」

「まあ、早いですね。文献研究では、1週間は無理だと思っていました」

「おばあ様、知っていたのですか」

 スズが聞き直す。

「確信はありませんでした。ですが、信じていました」

 スズにも笑顔が戻る。


 昨晩の話は、とても重要なことが多かった。私は、必死になって、覚えておることをスズに話した。この話は、お父さんもそうだが、スズから、カイトとバップにも伝わった。ニナは、精霊復活の話を聞いて、シュミュレーションモードに入っている。MG2は、ネロと戦うことがあると聞かされ、バップの尻を叩きながら、リンセイ号に武器を装着した。


カイトは、ヤコに導かれて、オズチ様に会いに行った。前日の夜に私が、待ち合わせの時間をオズチ様に伝えていたので、楠木の前で話すことになった。そこには、神聖林の動物たちの長と、里長の立一も参加した。


 こんなに大げさになるとは思わなかったので、私は、セレナさんと、綾見家特性のビスケットを焼く約束をしていたし、スズは、バップたちとリンセイ号のテスト飛行。

 後で、どんな話だったのか聞くことにしている。


 お父さんが、酒樽を用意していたので、どうせ大した話はしていないのだろうと思うけど。


みんな、楽しいお酒を飲み交わすんだろうな

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翼の少女 星村直樹 @tomsa

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