第33話 光の巫女との遭遇

 カイトとバップは、ネオを取り逃がした時のクルーザーについて話し合いだした。旋回して索敵するスタイルは、癖のある仕様だ。トラクタービームにしても、未知の技術が盛り込まれているに違いない。思い当たるのは、MG2とニナだった。MG2に状況を話すと、MG2が無念だと、がっくりした。主犯は、自分の元マスターの子孫だった。


「それは、救命システムや。パイロットの意識がなくなったときに、救出に行く。ネロやったか、その主犯だけを曳航したやろ。パイロットスーツと連動しているからな。まさか、アナキンの子孫が主犯やなんて」


「逃げたクルーザーは、捕まえた?」


「無理です。アナキンのステルスコアは、4層まで浄化しています。地球の防衛システムは、すべて突破されるでしょう」

 ニナが、MG2の代わりに答える。


「すまん、どこに行ったか見当はつくんや。そやけど、捕まえることはできん。アナキンとは、ジオシティ合衆国ができたところで別れた。わし、インナーコアに用ができてしもうたんや。最後にアナキンは、島宇宙に別荘作る言うとった。そこが、隠れ家やろうけど、場所は知らんのや」

「コロニーの記録にも残っていません」

「隠れ家やもんな・・、アナキンらしい」


 島宇宙は広大だ。カイトとバップは、これ以上の捜索は、大人たちに任せるべきだと判断した。自分たちはインターン世代で、成人扱いだが、大人ではない。MG2がいるからできてしまうだろうが、普通は、宇宙を自由に航行できない。大事なのは、これからだ。自分たちは、地球の未来を見据える。仇討ちは、オズチ様の望むところとは思えない。二人は、マナミとスズの所に戻った。




 火事は、里の消防隊と、白門島の戦艦のおかげですぐ鎮火した。そこには、多くの犠牲者が横たわっていた。ほとんどは、自分たちの長である主を守るために戦った猪たちだった。幸いなことに、猪の頭領ヤズナは、大やけどをしたが、命に別状なかった。ネオグランドの地上の戦闘員は、逃げた主犯のネロを含めて7人。そのほとんどが、死体で発見された。


 立一は、マナミをオオカミの銀に任せて、林に戻った。猪の多くは、大やけどをしているものの、今なら、救える者がたくさんいる。狸が、命を張って猪の火傷を応急処置していたからだ。


 白門島、島会長の徹に猪の救命と里への運搬を頼んで。消火活動をしている里の者と合流した。そこには、若頭のカイと共にコンがいた。コンは、灰やすすで真っ黒になっていた。


「コン、すまん。主様は、間に合わなかった」

「くうん」 知っているとコン。

「ヤズナは、無事だ。里で看病する」

「くうん、くうん」


 二人は、ボーーーっと猪を救護している白門島のクルーを見ていたが、そこに、ヤコがやって来た。コンがヤコと話し、二匹が、立一について来いと促した。二匹の後を追って走る立一。2匹と1人は、神聖林のさらに奥に入っていった。


 相当走ったところに、猩々の太郎が、世人の長を連れて待っていた。世人の長は、今回の火災の顛末を聴きたかったのだ。


 世人の長は、防護服を着ていなかった。長いひげに、軍服のような緑の服。古びた帽子。相当の年長者だろうが、かくしゃくとしていた。立一は、この姿、どこかで、見たことあると思ったが、まずは挨拶だ。


「ここは、清浄なのですか」

「そうじゃよ。ヘルメットを取りなされ」

 老人に促されて、ヘルメットを取る。


「龍の里で、里長をやっている城山立一です」

「立一か。大きゅうなったな。わしは、世人の長で豊明という」

「では、中国宇宙軍の」

「内緒じゃぞ。わしは、今の暮らしが好きなんじゃ。そうじゃな、ホウさんとでも呼んでくれ」

「父の話が聞きたいです」

「よいが、先にこの騒動の顛末を話してくれ」


 立一は、ネオグランドの襲撃を話した。


「そうか、消火できて何よりじゃ。火事は他人ごとではないと思っておった。こちらも、消火活動をしようと思ったが、この太郎が、ついて来いと騒ぎよる。何のことかと思ったのじゃが、お前さんが来るとはな」

「太郎は、里で暮らしていたことがあるんです」

「なるほどの」


「里に戻られますか」

「わしゃ、神主にあこがれて日本に来た。ところが、大勢の街の人を死なせてしまった。神主失格じゃ。蟄居しているのが、身分相応というものじゃろ」

「そう思われるのでしたら、仕方ありませんが、自分は、世人たちと、交流したいと思っています」

「らしいの。龍の里が、神聖林と仲良くしているのは知っている。そうじゃな、わしの村の者は、大変な時、誰も助けてくれなかったから、地上人も、シェルター人も、コロニー人も嫌いじゃ。唯一、龍の里長じゃったお前さんの親父さんを頼って、偶に里に下りていくぐらいじゃ。時間は掛かるかもしれんが、ええよ。今度、遊びに来なさい」


「本当!」

 ガサッと、後ろの藪から、女の子が出てきた。

「こりゃ、アイリ。ついてきよったんか」

「おじいちゃんに頼んでも、許可してくれないからでしょ」

「仕方ない、挨拶しなさい」

「豊明愛理です。16歳です。里長の娘さんやその守手も、16歳なんでしょう。よろしくお願いします」

 身長は、娘と同じぐらい。きれいな顔立ちをしている。


 立一は、光の巫女に遭遇した。名前は、いつも、アイリと名乗ると、オズチ様から聞かされていた。しかし、そのことを顔に出さず。マナミの父親として対応した。


「はは、アイリちゃん、マナミと友達になってくれるのかい」

「ぜひぜひ、村には、同い年の友達がいないんです」

「じゃあ、今度、マナミたちを連れて遊びに行くよ」

「よろしくお願いします」

 アイリは、やったーと、両手を合わせて小躍りする。こうしてみると、普通の16歳の娘だ。


「ホウさんと、呼べばいいのでしたか」

「そうじゃ」

「では、近いうちに娘たちを連れてきます」

「待っとるよ。里長と、その娘たちなら、歓迎じゃ」

「ありがとうございます」


 アイリは、コンに抱きついていた。迷惑そうにアイリを見るヤコ。太郎が、近くにやって来た、周りを見ろと促す。とても、多くの世人が、藪の中に潜んでいた。立一は、世人と仲良くなるのは、大変だと苦い顔をした。そうしていたら太郎が、ぽんぽんと背中を叩くので、気を取り直して、世人の長に挨拶をして、この場を離れた。


 火事現場に帰ってみると、現場は、まだ騒然としていた。コロニーから、要請を受けたワージシティの警察が現場見分をしている。里長の自分を見つけて、走り寄って来た。ワージシティの警官は、初めて神聖林に入って、そうとう舞い上がっていた。上司が、バップのお父さんだと聞き、丁寧に対応することになった。

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