第32話 速攻
洞の中に入ってみると、外宇宙用の防護服を着た男が3人。その奥に、オズチ様が、ぐったり倒れていた。
ネロの部下たちは、マナミを見て、「なんだ、女の子か」と銃を下げた。
「バカ、里の守手かもしれないぞ。気を緩めるな」
ネロの警告は、むなしかった。
マナミの長い髪の毛が、逆立つ。
目は攻撃色の金色に。
マナミは、真っすぐネロに突っ込んだ。
慌てて銃を向ける部下たち。
そこに、白い影と黄色い影が飛びついた。ヤコと銀だ。ヤコは、マナミの後ろから。銀は、洞の窓から飛び込んできた。
部下は、更に慌てて狼に銃を向けようとしたが間に合わず、銀に首をへし折られる。ヤコの方は、地面に相手を抑え込んだが、抵抗されている。そこに銀が来て頭を噛みぐるっとねじる。ヤコが胴体を抑えていたのでひとたまりもなかった。
マナミの光体の羽は、今まで見たこともないほど大きくなり、洞の中を覆うほどになる。その羽で、体を覆い,更に発光した。
「うわーーーーー」
ネロは、散弾銃をマナミに向けた。飛び上がるマナミを撃つ。
バン、バンと天井側に連射したが、マナミは天井を蹴ってネロの上に覆いかぶさった。ネロは倒れて銃は、地面に、その上をまたぐように乗るマナミ。
「貴様、主様に何をした」
ヘルメット越しにマナミのパンチがネロに当たる。最初上体を起こしていたネロは、地面にいやというほど打ち付けられた。可動部の首が、折れ曲がりバウンドする。
「うげっ」
そのあとのパンチは、強靭な防護服とヘルメットに阻まれて、痛くない。しかし、ネロの全身に、悪寒が走った。
なんだ、この、虚無感は
マナミがネロを殴るたびに、こぶし大の黒い風穴を空けられているような感覚。大切な何かが、砕け散る。
ネロは、この暗闇に、怯えた。自分は、何て小さくて、やせ細っていて、世界に向かって震えているのか。ネロは、暗闇に飲み込まれた。
「マナ、やめろ。もう気絶している。この人は、死以上に苦しむことになるぞ」
「こいつが主様を殺したんだ」
「その人を殺すんじゃない。罪を償わせるんだ」
カイトが、マナミに抱きついた。
「銀、ヤコも。この人だけは殺すな。じゃあないと、次は、もっとひどいことになる」
「でも、でも」
マナミが泣き出した。
そこに、バヒューーーーンと、洞の外で、とんでもない音がした。これは、ファイタータイプの宇宙船が強制着陸した音だ。銀とヤコが、外を警戒する。
この時マナミは、カイトに抱き起されて、ネロから離れていた。
そこに、宇宙船からトラクタービームが発射された。空中に浮かぶネロ。
「銀、ヤコ、そいつを逃がすな」
銀とヤコの追撃むなしく、素早く曳航されるネロ。マナミが、その後を追う。
マナミとカイトが洞の外に出ると、ファイターというよりは、クルーザータイプの宇宙船が、ネロを収容しているところだった。
「カイト、あのクルーザーを追って。アイソトープなら、ボディを切り裂けるわ」
「無理だ。敵は、もう、あの人を収容している」
「そんなことない」
マナミが、カイトのソーサーに飛び乗った。相手のクルーザーは、何かを索敵しているように回転している。
「戻ってこい。オズチ様をほっとく気か?」
これを聞いたマナミの動きが止まる。
敵クルーザーは、その後、バヒューーンと真っ直ぐ宇宙に飛び出した。とても追いつけそうにないスピード。銀たちは、このクルーザーを見送った。
ソーサーから降りたマナミは、泣いて歩こうとしない。カイトが、肩を抱いて、オズチ様のそばに連れて行った。
オズチ様は、亡くなっていた。腹に、何発も撃ち込まれた銃弾の痕。オズチ様は、大して抵抗をしていなかった。そのため、その腹から、大量の血が流れ、その場所に水たまりのようにたまっていた。
「オズチ様・・・」
顔は、いつもの様に、どおってことない、どんとこいという、親分肌で、優しい表情が見える。
「オズチ様」
泣き崩れるマナミ。夢の中で、一番の話し相手。最高級の柔らかいじゅうたんのような毛並み。額の傷で、ちょっと強面になった顔に抱きついた。
そこに、白い毛が、灰やすすで真っ黒になったコンが、やって来た。マナミの顔を舐め、涙を拭いたら、すぐ、外に出て行った。その後を追うヤコ。コンは、林の住人たちを避難させていた。銀が、マナミとカイトを守っている。銀と、コンが、目を合わせて、頷き合った。
しばらくして、本当にしばらくして、立一が、オズチ様の洞を訪ねた。カイトから、コムリンクで事情は、聴いていた。オズチ様が亡くなったと聞き、林の安全を優先した。なぜなら、地上の敵の数を把握していなかったからだ。そのため、敵の捜査を優先した。立一は、オズチ様に神聖林の長を任されている。林の住人の命を守らなければいけない。すぐにでも、オズチ様の許に向かいたかったが、自分の勤めを果たすことにした。
銀は、泣いているマナミのそばで丸くなっていた。立一が来たので立ち去ろうとしたが、立一にマナミを任され、また、そこに丸くなった。次に、スズと、バップが来た。スズは、守り手モードに入っていない。マナミと一緒に泣き出した。銀は、仕方なく、スズに、マナミのそばに座れと促し、そこにうずくまった。銀は、しばらく、この二人のお守りをすることになった。
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