第31話 炎上

 海伝いに廃墟の街に出ると、桜の木で囲まれた植物の試験場がある。ここから、大通りを真っ直ぐ北に進むと神聖林になる。


「火の手よ。ひどい!」

 マナが、北を指した。


 神聖林の火の手は、そう大きく見えなかったが、煙がひどい。火事の明かりで、赤黒く見える。


「火炎放射器だ。アイソトープだったら、あんなに煙が出ない」

 アイソトープは中性子光を使った発火装置。火力が強すぎて、煙が出ない。これは、バイオ燃料。バイオ燃料は、どちらかというと、地上人が好んで使っている燃料。バイオ燃料を使った火炎放射器なので、火が林に燃え移りやすい。


「ヤコ、おれの前に来て先導してくれ。このまま神聖林に、突っ込む」


「コン」

 ヤコは、モースピードで、大通りを疾走しているソーサーの一後ろから、軽い感じで飛んで、カイトと運転席の間に入った。

「最初は、隅音川沿いに進んでください。清浄な道です」


 少し遠回りだが、川の上を走れるカイトのソーサーなら、問題ない。


「お父さんたちは?」


「今、城山を出た。ネオグランドを捕まえることにしたみたいだ。里に増員を頼んだみたいだよ。ごめん、コムリンクは、これしかないんだ。何かあったら、知らせる」


「うん」

 里のみんな、おそい


 立一たちが遅かったのは、MG2が、ニナの報告待ちをしていたからだ。カイトは、その話をあえてしなかった。マナミもスズを人殺しにしたくないに決まっている。



 私は、いやな予感がしてならない。胸のドキドキが、全く収まらなかった。オオカミの銀は、神聖林の奥に住んでいる世人の村近くにいるはずだから、私たちより先に、オズチ様の所についているはずだ。相手は、コロニー人。武器を持っているが、自分達と反応速度が違う。私もそうするだろうがオオカミも、敵のレイザーガンにひるみもしないで、立ち向かっていくだろう。しかし、火炎放射器は、広範囲をカバーできる武器だ。狼もそうだが、動物たちは、火を恐れる。苦戦していると思うと、居ても立っても居られない。たぶん私は、相手の2倍以上の身体能力を持っている。コロニー人は、そのぐらい身体的に疲弊している。外宇宙用の防護服を装着していても上からぶん殴ぐる気でいた。



「あの、川にしだれかかっている松の木の先です。そこから、神聖林に入ってください」


 ソーサーは、どんどん火の手が上がっている場所に近づいていく。



 森に入ったとき、最初は、大やけどをして、川に向かおうと、もがいている猪が、数体見えただけだった。しかし、火災が起きている林近くに行くと、景色が一変した。累々と黒焦げになって倒れている猪たち。

 もうもうと上がる煙に、こうこうと燃える炎。

 その状態は、オズチ様の住処に近づくほどひどくなった。


「見ろ」

 カイトが叫ぶ。

 火炎放射器の火に向かって真っすぐ突進していく猪たち。火炎放射器を持った、コロニー人は、火の中から出ようとしない。その火の中に突っ込む猪たち。ネオグランドは、必死になって、猛進してくる猪に火炎放射器を向けていたが、その火にあたって倒れる猪を踏み超えて、後続の猪が突進してくる。そのコロニー人は、猪に踏みつぶされて、悲鳴を上げた。だからと言って、火の中に突っ込んだ猪もただでは済まない。


 火の海の中で、あえぐようにバタバタ倒れる猪たち。


「ごめんね、みんな。助けられない」

 マナミがポンタをぎゅっと握る。


「ぎぃぎぃ」

「ポンタが、倒れた猪たちを助けに行くそうです。ポンタ、川で、水を浴びて、火傷をした猪に寄り添うのよ」

「ギウ、ギギーーーン」

 ポンタが、ソーサーから飛び降りた。仲間の狸を呼んで、叫ぶ。

「ポンタ、みんなを助けて」


 ポンタは、そのまま、林の中に入って見えなくなった。


 ただ事でない様子にカイトが、アイソトープの光剣をソーサーから出した。敵は、防護服、それも、外宇宙用の防護服を装着している。このスーツは、防弾防爆である。アイソトープの光剣は、その宇宙服を切り裂いてしまう超高温の剣だ。


 犠牲が多すぎる


 カイトは、敵を倒すことにした。カイトの様子を見て、頷くマナミ。


「マナ、怒るのはいいけど、光色は使うな」

「どういう事」

「さくらさんから聞いたんだ。そんなに強い波動で敵を殴ったら。光体に蓄積されている記憶まで吹き飛ぶそうだ。オズチ様の所に敵がいてもオレがやる」

「うん」

「とにかく羽を収めろ」

「うん」

 オズチ様の住処は、すぐそこだ。


「楠木が炎上してる」

「大丈夫だ。若い木が幾重にも老木を守っている」


 楠木の前には、おびただしい猪の死骸。マナミは、青ざめた。


ボンボンと、クスノキの洞の中で散弾銃のはじける音がした。それも何度も。


「オズチ様!」


 カイトが止める暇もなく、飛び出すマナミ。まるで、飛んでいるように、洞の中に突っ込んでいった。


「マナ、行くな」


 その後を追うヤコ。


「くそっ!」


 カイトから見ると、マナミは、羽を逆立て、黄金色に眩しいほど光っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る