第30話 リンセイ号出撃
立一は、白門島の島会長、石塔徹と、酒を飲み交わしていた。立一の亡くなった奥さんは、石塔家の人で、徹は、その奥さんの実兄で、立一の義理の兄にあたる。
「兄さん、いろいろありがとうございました。まま、一杯」
「またか、おればかり飲んでいないか」
「自分も、飲んでいますよ。それより、そろそろいいか。カイト君から、主様の伝言です。『そうか、石塔が倭人の頭領になったんか。1500百年ぶりじゃの。よかった。テツに、そう、言うてくれ』だ、そうです」
「おっ、うっ」
徹は、言葉を詰まらせて、何も言わずに泣き出した。こうなることがわかっていたので、立一は、今まで、そのことを黙っていた。石塔家は、1500年前、白門島のみならず、瀬戸内海全域の海賊、倭人海賊団の頭首だった。しかし、その時、島の守り神だった朱雀を連れ去るという罪を犯したかどで、島を500年間も追われた。千年前に朱雀が島に戻されたことで許され、島に帰っている。それから、長い年月を経て、また、石塔家が、倭人海賊団の頭首に返り咲いた。オズチ様は、倭人海賊団の現頭首の表向きが、島会長だと知っていた。
徹は、男泣きに泣いて、取りつく島もない。
倭人海賊団は、1300年前に、海賊家業をやめている。だが、いつの時代でも、最先端の戦艦や潜水艇を有していた。いまでは、弩級の戦艦を持つ宇宙の冒険者集団として、一部の高官に知られる存在となった。民間で、戦艦を持つ許可を得ている船団は、宇宙ひろしと言えども数えるほどしかいない。
「そうか、主様が」
「石塔のことは、よく知っているそうです」
「はあ~、そうか、主様と話がしたい。ご先祖様にも、報告したい」
「今度、うちの娘を連れて、会いに行きましょう。娘も実は、昼間、モールス信号で、主様と話ができるのです」
「本当か。まなみちゃんにお願いしてくれるか。恩にきる」
「恩だなんて。主様が喜んでいたのですよ。喜んで会ってくれますよ」
泣きながら、どや顔をする徹を見て、その横で、嫁が笑ってくれているような気がして立一も、もらい泣きしそうになった。
そこに、MG2が転がり込んできた。
「大変や、神聖林が攻撃されてる。ネオグランドや。狙いは、主様に決まってる」
「なんだと!」
二人がドンと、立ち上がった。
「神聖林の火事はまだ小さいで。せやけど、上空に宇宙艇が、3艘もいる。上空は、スズはんに、行ってもろうた。神聖林は、マナちゃんや」
それを聞いたカブ爺が、ドンと立ち上がると、ほかのみんなも立ち上がった。
「敵は、神聖林に火を放ったんだな」
「そや」
「兄さん、上空をお願いします」
「任せろ」
「皆の衆。消火班と、迎撃班を組め。カブ、消火班を任せる。イチ、カイ、何人か連れて、ついてこい」
今回、MG2は、なだめ役になる。
「相手はコロニー人です。捕まえてください」
「MG2の気持ちはわかる。地上は、そうしよう。だが、兄者!」
徹が、うなずいた。
「テツさんも、よろしゅう」
「悪いが、空中戦だ。相手が、抵抗したり逃げた場合は、保証できんぞ」
徹が、スズより怖い顔になった。MG2は、こうなると予想していたので、それ以上、口を挟まなかった。
「カイ、地上部隊は、増員だ。里に下りて、若集を集めろ。イチはついてこい。カイ、先に行くぞ」
若頭のカイが、心得たと、講堂を飛び出した。長の屋敷には、防護服がある。里の人たちは、ものすごい速さで、戦闘準備をはじめた。徹たちは、倭人海賊団に連絡しながら、屋上のクルーザーに向かった。
スズたちが乗るリンセイ号は、緊急発進をした。地下倉庫に、緊急発進用の反重力ダンパーはない。なので、最初は、静かな滑り出しをした。しかし、いったん空中に出ると、補助エンジンであるパルスエンジンを全開にした。パルスエンジンは、イオンを放出する電気エンジンである。とてもクリーンなエンジンなのだが、この時ばかりは、後部にあるエンジンに稲妻が走った。
「エーテルフィールド、中性子バリヤー共に展開。敵機機影、レーダーに反応していません」
レーダー調節は、通信やレーダーや艦運営を担当しているニナが、調節をする。しかし、ステルスコアのような特殊結晶を捉えるのは、化学分析や武器コンソールやエンジンを担当しているバップの仕事だ。
「ニナ、光学測定信号をレーダーに表示。スズ、目視と合わせて頼む(敵のステルス波動を捉えた。ニナ、スズにデーターを送ってくれ)」
「光学測定(ステルス波動)、レーダー信号に変換します」
「レーダーに機影。すぐそこね」
リンセイ号は、電気パルスの稲妻をズガンと放出して北西を目指した。
ネオグランドの副官格であるパロは、小太りで、走るのが苦手だ。だから、いつも、宇宙艇で、上空に待機している。いつもは、バーム軍や地上の警察を警戒して何もしないのだが、今回は、援護射撃をすることになった。ネロが、林の動物達に、手を焼いての指示だった。このレーザー砲攻撃でMG2達は、敵の攻撃を知ることになる。
ところが、レーザー砲を小さな円盤に全部はじかれてしまう。最初は、この林一帯が、バリヤーに覆われているのかと思ったほどだった。上空に待機をする宇宙艇は、ステルスコアの周波数を、正規のものとは違う周波数に変えただけの安易なセットなので、いつもは、冷や冷やして、早く終わらないかなと、警戒しながらネロの帰りを待つだけだったのだが、今回は、様子が違う。
「変ですね。なんなんでしょう。あの、小さなお皿。レーザー砲を全部はじいています」
「パロさん、龍の里か、ワージシティの防空システムが作動しているんじゃないですか。何んか、やばくないですか」
「そうですね、いつでも離脱できるようにしてください。ネロ様のハイクルーザーのステルスコアは、4層まで、浄化してありますから、大丈夫でしょう」
パロは、臆病だし、ネロにへつらうところがある。しかし、今回は、自分の保身を最優先した。逃げる準備をしているところに、龍の里から、ファイターが、スクランブルしてきた。里から出てきたファイターは、リンセイ号と、認識票を出している。警告を出されたが、返答しなかった。目視される位置だが、逃げれば、向こうは、こちらを見失うだろうとネロは、高をくくっていた。
「こちらリンセイ号。あなたたちは、龍の里の領空を侵犯しています。神聖林への攻撃をやめ、速やかにエンジンを止めて、投降しなさい」
ニナが、お決まりのセリフを言っている間に、バップが、レーザートラップにダークライトをセットする。レーザーコアを侵食するライトだ。更に、その侵食部分に亀裂が走るよう、特殊な次元重力波をセットした。
「スズ、今回のレーザートラップは、焦点タイプのポイント弾になる。ポイント効果範囲は、10メートル。敵のコンピューター位置送る」
「3連できる?」
「できるよ。セット完了」
「OK」
ポイント弾は、着弾焦点の位置が前後上下左右にずれると意味をなさない。スズの的中率は、90%。驚異の数字をはじき出している。
「発射!」
パロたちからすると、ふわっと現れた、民間のクルザーが、自分たちに対抗して警告を発しているように見えたので、まったく意に介さず、急いで逃げる気も起きなかった。
「このクルザーの後からいっぱい、ファイターだの、宇宙艇だとか出てくるんでしょうね」
「そろそろ逃げますか」
「そうしましょう」
「パロさん、クルーザーから、レーザーです。集積系みたいです。航行に支障なし」
「訓練用のレーザーじゃないですか。お粗末ですね」
「大変です、ステルス機能停止。ステルスコア、振動していません」
「なんですって!!!!」
「3艘とも、停止」
リンセイ号からは、ずっと投降しなさいと警告が発せられていた。その中で、呆然とするパロとクルーたち。ステルス機能。これがなかったら、地球圏の、どこにも逃げ場はない。しかし、パロは、逃げることしか考えていなかった。
「とにかく、宇宙へ。地球から脱出するのです」
「ラジャー」
「ラジャー」
「ラジャー」
クルーも、それしかないと思った。
地球圏、特に、地上人は、高度100~200Km内を活動範囲にしている。あまりオーロラが現れるカーマライン(高度100Km)を越えようとしない。シェルター人は、宇宙交易が盛んなため、旧来通りだが、大気圏内を一般的な活動範囲と定めている。1万Km以内。ネロたちのコロニーは、月と地球の共振軌道、つまり中間地点にある。現在、地球から15万Km辺り。
宇宙軍であるバーム軍の本部は、軌道エレベーターの突端にある宇宙ステーションにある。高度10万Km。軌道エレベーターは、反重力機関が開発される前に、アメリカのテキサス州海上の離島に一基設置されただけである。
バーム軍の宇宙ステーションは、パロたちの宇宙艇が、自分たちのコロニーに逃げ込む方向に位置する。
ステルスコアを破壊されて慌てたパロたちは、コロニーに直線方向、つまり、軍のステーションがある東に逃げ出した。龍の里から数十キロ南に位置する白門島の海賊基地は、これを見送っている。まったく、無警告というわけにもいかないし、宇宙に逃げようとする敵を追うためには、緊急発進と言えども、準備が必要だったからだ。
徹たちは、スカイクルーザーで、自前の戦艦と合流し、少々の距離など関係なく敵宇宙艇を撃ち落とす気でいた。
「地上人の活動範囲は、大気圏ぐらいです。すぐ逃げられます」
「パロさん、前方に戦艦の動力反応。宇宙ステーションからです。軍のドレッド艦が出てきます」
「あわわわわ。なんてことです」
「自分たち、領空侵犯していますから。ステルスコアないですし・・・・」
「光点1,2,3。ドレッド艦3艘です」
白門島より先にバーム軍が、パロたちに警告を発した。
「コロニータイプの宇宙艇。認識番号を出しなさい。貴艦は、地球圏に領空侵犯しています。速やかに停止して、投降しなさい」
白門島も、軍の通信を聞くことになる。悔しがる徹。
「パロさん、地上からも、戦艦の動力反応。龍の里南海上。ドレッド級です」
「地上の戦艦、エネルギー増大。レーザーキャノン砲を使用しようとしています」
「軍です。軍に投降しなさい」
軍は、白門島のドレッド艦に、協力の意を表して、領空侵犯の宇宙艇を曳航した。徹は、敵が出した認識番号をにらんで、鬼のような顔をしていたが、軍もやると、言って、気を取り直すことにした。戦略レコーダーに、スズのレーザートラップが命中してから、敵のステルスが強制解除されるログがあったからだ。スズは、身内だ。海賊の手柄が、ないわけではない。徹は、ひるがえって、神聖林の消火活動の応援に向かうことにした。
リンセイ号のコクピットでは、ニナが、敵宇宙艇の顛末を報告していた。
「敵宇宙艇、バーム軍に拿捕されました」
「やったねスズ」
「宇宙ステーション方向に逃げるからよ。そうでなかったら、うちで、撃墜できたのに」
スズは、白門島の戦艦の早い反応に満足していた。
「自分たちで全部やらないって、最初に言ったでしょ。あれでよかったんだよ」
「うん」
「じゃあ、カイトたちを追おう。スズ、廃墟の街に着地してくれ」
「了解」
スズたちは、マナ達を心配した。ニナは、まさか、アナキンの子孫が首謀者だとは、この時、思いもしなかった。そのため、4層浄化のステルスコアをスキャンしなかった。
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