第29話 ネオグランド急襲

 祭りの後片付けが終わった夜中、ヤコとポンタ達に、食事をふるまっていると、バップとMG2が、私の部屋に、転がり込むように入って来た。スズが異常事態を察して、スガンと守り手モードになる。


「大変だ、神聖林が襲われた」

「ごめんな、祭りの後片付けに追われて、察知するのか遅れた」

 MG2のコムリンクから、ニナも謝る。

「ごめんなさい。猪の主様を間近で見たものだから、精霊について調べ物をしていて、私も、察知するのが遅れたわ」


「とにかく、スズは、ぼくといっしょに来てよ。上空に宇宙艇が3艘いるんだ。追い払わなきゃ」

「了解」スズが真顔になる。

「上空からの攻撃は、ルーツイアで防げとる。せやけど、地上は、やられた。くそー、宇宙艇が完成しとったら、間に合ったんや」

「私は?」

「カイトがオートモービルを出してる。主様が心配や。頼むでマナちゃん。ワシは、立一さんに、言いに行く。消火活動もせんとやで」



 私は、胸が締め付けられるような感覚に襲われた。ネオグランドの標的は、オズチ様だ。


 里のみんなも、白門島の人も、あれだけ気を付けていたのに、どうして


 とにかくカイトが待つ玄関に走った。ヤコとポンタも私についてきた。


「ヤコごめん、大きすぎて乗れない。ポンタは、私とカイトの間に座るのよ」


 それを聞いたヤコが、子供に化けて、私にしがみついてきた。


「わかったわ、ヤコも一緒よ」


「海側から行くよ。その方が早い」


 ソーサーだ。

 カイトが最近改造に凝っていたバイクタイプのオートモービルだ。反重力で、海上も走れる。最初は里の中の移動用だったが、白門島にも、持っていく気で改造してた。


 オズチ様・・・


 いつものオーラと違う私をカイトは感じていた。


「マナ、落ち着くんだ。羽が、逆立つように立ってるぞ」


「落ち着くなんて無理よ」


「とにかく、しがみつく手を緩めてくれ、ポンタが死んじゃうぞ」

「きゅー」

「ポンタごめん」


「急ぎましょう」

「ぎぎっ」


「ヤコ、話せるの!」

 言葉少ないヤコは、頷いて、神聖林の先導を受けおった。


「マナ様は、作業服ですが、防護服ではありません。神聖林の中は、私が先導します」

 カイトは、防護服を着ている。いざとなったら、戦闘する気だ。神聖林に火を放った敵は、まだそこにいる。



 城山家の地下格納庫は、海岸側に、大きく隔壁を開いていた。

 そこに、パイロット姿のスズとバップが下りてきた。バップは、コムリンクでニナと打ち合わせしながらの搭乗。顔をしかめて応答していた。オレンジ色のリンセイ号にエンジンが灯った。

 スズは、鬼気迫る形相をしている。まるで、鬼だ。ニナとバップは、これから、スズが何をしようとしているのか、容易に想像がついた。ニナは、艦内に入っても、艦内のオープンチャンネルを使わない。ニナは、バップにとても厳しい提案をした。それは、容易な提案ではなかった。


「ぼくが、スズを抑えるの?」

「それしかありません。スズさんに人殺しをさせたいのですか」

「里最強の女子が、守り手モードに入っているんだよ。半端ないんだよ」

「それでもやるしかありません。スズさんを抑えられるのは、バップだけよ」

「じゃあ、ステルスコアの破壊を許可してよ。それ以外じゃあ、説得できないよ」

「この技術は、公開できない。ジオシティ合衆国の根幹ですよ。それとも、国を滅ぼしたいですか」

「一部の悪い人のために、そこまでしない。今回の件は、特例になるよう調整してよ。ステルスコアが壊れれば、敵は、逃げ場を失う。そこをコロニー人に捕まえてもらえば、秘密は、守られるでしょ」

「仕方ありません。バップ、頑張ってね」


 ニナとの交渉は、成立した。でも、守り手モードに入っている近寄りがたいスズを説得しなければならない。

 コクピットで、発進準備をしているスズは、鬼気迫る顔をしている。確かに、このままいけば、ネオグランドの宇宙艇は、追い払うどころか皆殺しにされる。それを説得するなんて、こりゃ、命懸けだと思う。


「スズ、聞いて」

「OK。エネルギー充電50%。1分半後に発進できます」

「1分半あるんだね。じゃあ打ち合わせだ。いいかい、今回、武器は使わない。シュミュレーション用のレーザートラップを使う。これでも、敵の電気系統に打撃を与えられるでしょ」

「どうしてですか。敵なのですよ」

 操作盤から目を離さなかったスズが、バップに振り返った。真顔だし無表情に見える。バップは息をのんだ。バップは、膝の上で、手をぎゅっと握っているスズを見てしまった。スズはもう、相手を殲滅する覚悟を決めているみたいだった。


「スズ、全部ぼくたちでやらなくてもいいんだよ。コロニーの人に捕まえてもらおう。罪を償わせるんだ。オズチ様だって、簡単にはやられないさ。猪の頭領だって、オオカミだってついているんだぞ」

 そう言って、スズの手を握った。スズの顔が、溶けるようにやさしい顔になる。

「でも!」

「あの宇宙艇たちは、ステルスを使って、勝手に地上に来ているんだ。だから、発見が遅れた。それを破壊するだけで十分だ。後は、警察が、捕まえてくれる。コロニー人には、ニナに連絡してもらう。いいね、ニナ」

「了解しました」

「よし、仕事をしよう」

 スズは、それを聞いて、少し頷きながら操作盤に目を戻した。だけど、守り手モードには戻らなかった。素のまま冷静を取り戻した。

 敵のいる空を一人で飛ぶのは怖い。でも、バップがいる。そこには、未来がある。スズは、敵に、温情をかけることにした。



 MG2は、ニナからの、結果待ちをして動けないでいた。MG2は、スズより厳しい相手を説得しなければならない。それこそ至難の業である。だから、ニナの提案しかないと思った。


「そうなんや、バップえらいなー。スズちゃんを説得したんや」

「そうです。でも、里長や白門島の海賊の説得は、難しいんじゃないかしら」

「そうやで、そやから、ここからは、時間の勝負や。スズちゃんの腕は知ってる。敵の無力化は、簡単や。そやけど、ジオシティ警察より、白門島の海賊の方が早いんと違うか」

「だから、バーム軍を出撃させましょう。宇宙空間で、ジオシティの警察に渡せばいいのよ」

「戦艦、言う事か」

「それも、ドレッド級3艘よ。プラネット級なら一艘だけど、どっちがいい?」

「いきなりか」

「敵の宇宙艇が3艘もいるのよ。強力なけん引ビームがいるわ」

「ドレッド級3艘やろな。その方が、小回り効く。しゃあない、馴染みの奴に言うてみる。あいつ、スズちゃんに会わせろ言うてくるで。断り切れんと、違うか」

「この際よ」

「仕方ない、アナキンの国を守るためや」


 MG2は、バーム軍に緊急通信しながら、里長がいる1階の講堂に転がり込んだ。ここには、祭り関係者が大勢いる。里長をはじめ、後かたづけをしてくれた里の人や、それを手伝ってくれた白門島の人が、酒盛りをしていた。

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