口にするのも憚られる恐るべきノートに関する俺の陳述

カワシマ・カズヒロ

第1話「戻って来たノート」

ある日、俺が家に帰って来ると、PC用のデスクの机の上に1冊の黒いノートが置かれていた。

ノートの表面は黒煙と傷と折れ目で薄汚れていた。

そのノートを見た途端、俺は全身の毛穴が広がるのを感じた。


俺はそのノートのことを知っていた。

名状し難い悪夢の産物、曖昧模糊とした幾つかの物語の断片、世人に決して知られるべきでない恐るべき内容の数々が次々に脳裏に浮かぶ。

俺は恐怖した。


これは本物か!?


何故ここにあるんだ!?


あれは燃えるゴミに出したはずだ!


仮に残っていたとしても、なぜこんな目立つ場所に置かれているんだ!?




俺は吸い寄せられる様にノートを手に取った。

俺の本能は警告を発した。


やめろ!


見るな!


読むな!


ゴミ箱に捨ててしまえ!




……だが俺はノートを開かずにはいられなかった。

俺は震える手でページを捲った。

1ページ目には酷くゆがんだ宝玉を持つ妙に角が多い竜の(元ネタに対する)冒涜的な紋章が描かれていた。

俺は激しい後悔の念に襲われた。

紋章の下には何やら文字が書かれていたが到底読む気になれなかった。


次のページはヒロイン紹介のページらしかった。

骨格のおかしなヒロインの全身絵が見えた。

俺の脳裏にノートの恐るべき内容が次々と展開される。




オリジナルの長編ファンタジー長編(未完)


オリジナルキャラ入り長編SS(未完)


オリジナルキャラ入り長編クロスオーバーSS(設定のみ)




俺は恐怖のあまりノートを放り捨てて家から逃げ出した。

恐怖の余韻はすぐには抜けなかった。

俺は近所のスタバでしばらく時間を潰してから家に戻った。




家に戻ると、ノートはまた元の位置に戻っていた。

家を出た時にはノートは確か床の上に落ちていた筈だ。

表紙と裏表紙が上を向いた状態のままになったノートを俺は確かに見た。

空き巣の仕業かと一瞬思ったが盗られた物はない。

ストーカーか何かかとも思ったが俺をストーキングしたがる様な人物の心当たりはなかった。


俺は本格的に怖くなって来て、今度はノートをゴミ箱にシュートした(コンビニの店員さんには悪いことをしたと思う。心からお詫びしたい)。


家に戻ったらまた同じ場所にノートが置かれていたらどうしようかと思ったが、その心配は杞憂に終わった。

俺はノートの一件で精神的にかなり参っていたのでそのままベッドに直行した。




翌朝、俺はベッドから這い出すと、まずPC用のデスクを見に行った。


デスクにはまたしてもあの黒いノートが置かれていた。


俺は恐る恐るノートに近づいた。

そしてノートを開く。


するとノートから白煙が噴出した。

部屋は瞬く間に煙に包まれた。

俺は思わず壁際まで後退った。






煙が晴れると、そこには「ロングの金髪とブルーと金色のオッドアイを持つ、現実離れした美少女」が立っていた。

少女はこう言った。


「どうもお初にお目にかかります。私、ノートの精と申します」

「ノートの、何だって?」俺は聞き返した。

「ノートの精です」

「お、おう……」

「昨日からノートの姿で先生のお宅にお邪魔させていただいていました。本の姿のままでは不便だということが分かったので今日はアバターを作ってみました。どうですか先生」


そのアバターとやらは俺が昔ノートに書き殴ったオリジナル作品のヒロインを思い起こさせた。

背筋がゾクリとした。

俺はノートの精(仮)に向かって呻くように言った。


「あー……その、君はノートの精なんだな? それで、今更何の目的で俺のところに?」

「先生に作品の続きを書いていただきたくやって参りました」

「こ、断りたい……!」

「私も先生の意思は最大限尊重したいのですが、水子になった作品の設定達が悪霊になって先生に憑きかけているんです……」


ノートの精(仮)は黒いノートを指さした。

ノートからは歪んだキャラクターの絵やら文字やらが触手の様に這い出してうねうねと動いていた。






「やるしか、ないのか……」


俺は手で顔を覆った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

口にするのも憚られる恐るべきノートに関する俺の陳述 カワシマ・カズヒロ @aaakazu16

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ