探偵達の成長録 #夏菜

探偵達の成長録

#夏菜




「と、いうわけで、お母さん再婚する事にしました!」

「は?」

父さんと離婚してまだ一ヶ月も経ってないはずだ。どういうことだ?

「明日から同居するから!」

いきなり同居⁉︎何がなんだか…

「ほら夏菜挨拶して?」

えぇ…まぁこの人に罪はないし。

「あ、どうも、蓮井夏菜です。宜しく

お願いします。」

「あらっ違うわよ!橘よ!男性婚だから!」

いや今日聞かされたのにいきなり言われてわかるやつとかいないだろ。



あれから一週間たった。

今は部屋にいる。

「橘、ねぇ…」

不思議な感覚がした。

よく知りもしない男の苗字を名乗るというのは。

「やめてっ!」

「うぉっ⁉︎」

いきなり下から聞こえてきた叫び声に、1cmくらい飛びあがった。

「なんだろ…」

母さんのことだった気がして、古びた階段をギシギシ言わせながら下におりた。そして、


そして私は絶句した。


橘と名乗るその男が、母さんをひたすらに殴っていた。

状況の整理がつかなかった。

ふと、母さんがこちらに向かって何かを言った。いや、叫んだ。


「逃げて。」


ただそれだけ。

そしてやっと状況の整理がついた。

母さんは騙された。橘という男に。

助けなきゃいけないと。

わかっていても。

体が、動かなかった。

ひたすら、立ち尽くすしか無かった。



あれから、毎日の様に下から悲鳴が聞こえてくる。おりようとすると、

「逃げて。」そう言った時の母さんの表情が目に浮かんで、怖くなる。

それでも、今日は、絶対におりて、

母さんを助ける。そう決めていた。

そして、私はおりた。立ち尽くした。

その日、殴っていたのは、橘じゃ

無かった。…母さんだった。

母さんがひたすら叫び、ひたすら殴っていた。橘は、動かなくなっていた。

母さんがこちらに気づき、言った。

「夏菜、敵はいないわよ。おいで。」

そう言って笑った母さんの顔は、

私が知っている母さんじゃ無かった。

思わず後ずさると、

「夏菜も、敵なの?この人の、味方をするの?そうなの。そうなのね!」

怖い。

それはもう漠然とした恐怖だった。

母さんは声にさえなってない様な叫びをあげた。

遠くからパトカー、救急車の音がする。

嫌だ。

もう、二度と。

こんな景色を見るのは。




あれから一週間。

ふと、夜に目が覚めた。

私は今、街はずれの孤児院に居る。

その一室の、窓枠に座っている。

あの時。初めてあの景色を見た時に。

もしも、私が母さんを助けていたら。

こんな事にはならなかったのだろうか。今日が、いつも通りの日だったのだろうか。

「なーに泣いてんだ?」

同じ部屋の男子が聞いてきた。

「泣いてなんかないし!」

「はは、だろうな。バカが泣くわけないか。」

んなっ!

「おーい、静かにしろー」

「夏菜のせいで怒られたし!」

「私のせいじゃないし!」

此処での日々が、どうか、いつも通りの日であります様に。


探偵達の成長録

#夏菜

END.

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

探偵達の成長録 @ch0424

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る