4.回想
「あら、旦那様を見かけませんでした?
お食事の支度ができたのだけど、お部屋にいらっしゃらないの」
「……はぁ、いあや、…ああ、なんでもない。見かけてないよ」
「あらそう。…まぁでもすごい汗だこと。何か拭くものをご用意しましょうか?」
「…いや…いいよ、大丈夫だ、大丈夫、ぼくは平気だ」
八月二十二日のこと、
蔵の梁から麻の紐を用いて大鳥家の当主が縊死した。
同日、
その家から男が一人出奔した。
大鳥家の家人および使用人たちは確かにその男のことを記憶していた。
だが名前はおろか、なぜ大鳥家にその男が居たのか、
何をしていたのか、誰一人として思い出せる者はなかった。
そして、当主無き蔵には終ぞ、朱塗りの杯は見つからなかったのである。
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これでこの物語はおしまいです。
舞台に明かりがつきます。
緞帳 -大鳥邸の怪異ー 順番 @jyunban
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