3.大鳥邸の怪異
丹頂
★もう二度と、あの蔵に入ってはいけない。
もう二度と、行李を開けてはいけない。
中には朱塗りの杯がある。
あの蔵の中にいると遠くで私を呼ぶ声がする。
不明瞭な声に耳を澄ませると、ますます聞き取れなくなる。
でも、じっと、目が暗さに、鼻が埃の臭いに馴れる頃。
やっと彼女の言葉の意味が分かるのだ。
行李を開けると、中には木箱がある。
木箱を開けると、中にはあの朱塗りの杯がある。
行李の中には朱塗りの杯がある。
行李の中には朱塗りの杯がある。
行李の中には朱塗りの杯がある。
☆あア、ああ。きよしさン。
いいの、いいの、許してちょうだい?
アの事は大丈夫よぉ。
聞いてよ聞いて、どうしてよ、ううン。
いやよォ、嫌。ねぇ、ねぇ。ねぇ。
もう少しヨぉ、お願いお願い。
おお、うう、はあぇえ。
文が届いたのよ?え?
だからね?あのヒトよォ、あのヒト。
★私は信じていなかったのだ。
朱塗りの杯があることは知っていた。
しかしどう見ても只の杯なのだ。
でも今はよく解る。
行李の中に木箱がある。
その中に杯が入っている。
その中に入っているのだ。
いいやいいやいいや、その中に、這入っているんだ。
☆ねぇねぇねぇ。
話を聞いてほしいだけなの。
ネ?いいでしょう?
ダメダメ。もういいでしょ?
お願いよォお願い。
アタシはね、あなたなんか大嫌いなのよ?
でも、ね。さようなら。
ああ、はア、許してほしいだけなのよ。
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舞台に“主人公”がいます。★を台詞とします。
その後に“大鳥邸の怪異”が“主人公”の元へ近寄ります。
“大鳥邸の怪異”は鳥の姿を模した女性です。☆を台詞とします。
両手を広げ、できるだけ体をねじりながらゆっくりと近寄ります。
双方の台詞を終えると舞台の明かりが消えます。
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