異世界で伝説の勇者候補者として迎えられた

一之瀬安杏

プロローグ

1.語り継がれる英雄譚

 むかしむかし。

 これは本当にあったこの世界であった英雄譚の話だよ。


 あるところに一人の平凡な男がいたんだって。特に特化した能力があったわけでも、何かしらの力を持っていたわけじゃないんだって。彼は私たち刻印者マーカーと契約する契約者コントラクターだったんだって。その証拠に左手には契約者特有の刻印が刻まれていたんだ。だけど、彼は誰かと契約するわけでもなく、世界中を旅をしていたんだって。


 そんなある日、彼は洞窟の奥で封印されているボロボロの剣を見つけたんだって。彼は宝具のコレクターでもあったからうっかりその剣に貼られていた御札を剥がしたんだ。もちろん封印されていた剣は目覚めた。そして、封印を解いた彼のことを襲いかかったんだ。そこで彼は左手で剣を受け止めると、彼の刻印が反応して剣の暴走を止めることができたんだ。


 だけど、そこには剣の姿がなくて代わりに少女が横たわっていたんだって。その少女には額に刻印があってその刻印が赤く反応していたんだって。私たち刻印者が契約者と契約すると刻印がどうなるか知ってるよね?刻印が赤く光るんだよ。そう。その少女は彼と契約してしまったんだ。彼も契約する気がなかったんだ。どうしようと慌てている彼を気がついた少女がこう言ったんだって。


「私の初めて、どうしてくれるのよ……バカ……」


 それから彼は彼女と世界中を旅しているうちに、さらに新しい刻印者と契約をしていったんだって。普通、契約者は刻印者一人しか契約できないんだ。だけど、彼は六人もの刻印者と契約できたんだって。


 そして、彼らは年に一度だけ行われる星渡祭ほしわたしさいで優勝したんだよ。それを讃えて人々は彼らをこう呼んだんだ。


 左手の英雄・アーサー、とね。

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異世界で伝説の勇者候補者として迎えられた 一之瀬安杏 @ymamto-simno-nanjo

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