とある町のコメディSS

ボールペンの偉大さについて

「ボールペンを見て、俺はふと思うのですよ。昔は筆が使われて、西洋なら羽ペンですかね、兎に角、ボールペンというのはすごい発明だと思うのですよ。

　筆で言えば墨汁を、羽ペンならインクに浸すその過程、これが無くなっただけで一体どれほどの人々の時間が浪費されずに済んだか。想像だに出来ないと思うのですよ。

　そのひたすらに機能性を重視したシャープなフォルム。芯を取り替えること、ただそれだけで又書き始められるという俊敏性。ノック式なんていうのモノも生まれてますます便利になるという環境適応能力。

　そして何より、何より大事なのは、その優美なペン先。ここに人類史上、至上最高の発明と言ってしまっても過言では無いのです！　このボールペンというモノの全てがそこに集約されていると思うのですよ!

　先輩のように艶やかなその切先によって紡がれた文字、描かれた絵画には人を変える、世界を美しくする可能性が秘められていると私は思うのですよ!

　一体どれほどの人々が、いや、生きとし生ける物その全てが何度このボールペンの先に助けれたことか、分かったもんじゃないと私は思うのですよ!

　知ってますか？　これは私独自のルートからの情報なのですけど、ボールペンの先によって人類滅亡の危機が救われた回数、それが去年、とうとう千回を超えたそうです!

　隕石の軌道をずらす為に極秘で打ち上げられたロケットの先端についていたのもボールペンの先、地底人による地上奪還作戦を阻止するために地下深くにひっそりと佇む秘密の祭壇に突き刺されたのもボールペンの先、アトランティスと共に封印されたいた忌まわしき古の邪神の復活を防いだのもボールペンの先なんですよ！　もうボールペンの発明者にノーベル賞の全額を授与しても良いんじゃないかと私は思うのですよ!!

　だから先輩!!!　そのボールペンを早く仕舞ってください!　下手に使えば全人類が滅びかねないんですよ!!

　もう十分反省しましたから!!　もう二度と先輩の隠したお菓子のつまみ食いなんてしませんから!!　そんな親の仇を見るような目で俺を見ないで下さいよ!!!

　本当の事を言うと、先輩のダイエットに協力しようとしたのですよ!　いつもドカ食いしても全然太らない先輩も最近なんだか少しお腹が出てき……」

「うるせぇ」

　甲高く上げられた騒がしい悲鳴と共に、男の背中に幾つもの黒子が追加されていった。