エピローグ

 あの日の事は、後日ちょっとしたニュースになった。道路に残った足跡、黒い巨人の目撃情報、山の城跡の崩れた石垣、広場に残った多数の人型の穴。

 結局原因不明で片付けられたが、噂は風化する事無く、またその数日前に現れた畑のミステリーサークルや、病院、防波堤、倉庫に現れた人型の穴も絡めて町中を様々な噂が飛び交った。

 町にはオカルトマニアがこぞって詰めかけるようになり、たくましい事に町もこれを利用した町おこしを始めた。なお、イメージキャラクターには町の子供がデザインしたという「ろうそくマン」が採用された。

 そのやけにキレの良い動きの着ぐるみには、自ら志願したコウが入っている。

 未だに謎が多いしーちゃんは今は日々子の家に居候しているらしい。ふらっといなくなってしまうんじゃないかとか、黒い煙になって消えてしまうんじゃないかと心配していたが、今のところそんな気配はなく、むしろ少しずつ人間に近づいているように見える。知りたがりの性格は相変わらずだが。

 神社はなんとあの後一週間で工事が入り、今は跡形も無い売り地になっている。今となっては呪いの噂なんて嘘のようだ。住宅街に新たな家が建つのも時間の問題だろう。もともと誰の土地だったのだろうか。

 町の図書館であの城跡について調べてみたが、ろくな文献が残っていなかった。ただ、城主は悪政で有名だったようだ。お母さんの恨みと関係があるのかもしれない。

 そのお母さんの事でひとつ気がかりなのは、お母さんの遺骨の行方だ。コウも日々子も知らないと言う。しーちゃんは「なかだよ!」と言っていたがよく意味がわからない。日々子も首をひねっていた。しーちゃんは知識を得る事には貪欲だがアウトプットに関してはまだまだ発展途上なところが見られる。

 僕はというと今コンビニでしこたま買い物をしてアパートに帰っているところだ。好きなアイドルが引退してしまった悲しみで無駄遣いしたのだ。ビニール袋を両手に、涙をこらえながらボロアパートの階段を上ると、部屋の前に見慣れない女が座り込んでいた。

「ヒヒュッ、おかえり、また酷い買い物だな」

「うわっ、日々子か。白衣じゃないからわからなかった……なんだその髪型」

 服装は適当なチェックのシャツとジーンズ。眼鏡は相変わらずだが、髪が前と比べてなんだか整っている。超オシャレとは言いがたいが、小汚い白衣にボサボサの髪よりはずっといい。

「なんだその髪型とはなんだ。失礼にも程がある、ヒッ、ヒヒュッ。普通に傷つく」

「いや、前よりマシだよ」

「そっ、そうか。ヒヒュッ、ヒッ、ヒヒヒ。もう白衣キャラも必要なくなったからな。ヒヒュッ、立ち話もなんだからはやく入れろよ」

「座り込んでたろ」

 ドアを開けてやる。日々子が我先に中に駆け込む。見た目はともかく、中身はそんなに変わっていないようで安心する。

「ところで今日はなんの用でしょうか?」

 恐る恐る質問すると、日々子は見慣れたニヤニヤ顔で答えた。

「ヒヒュッ、実は新しい遊びに付き合ってもらおうと思ってな……」


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怨念まみれヒーローごっこ 木尾 @kioyu

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