第6話土曜日 ~土曜日はみんな一緒~

「相変わらず古藤さんは遅れているなあ。」

安部は貧乏ゆすりをしながら盆踊りに使う広場前で皆の点呼をとっていた。

「まあまあ、主任、古藤さんは準備時間開始には現れますよ。」

ADHD吉川は場の雰囲気に気を配る。

要領がよければいいってもんじゃねえ!再び叫びたくなる阿部であった。でもまあ、今週の勤務態度はまあまあであった。

今回の祭りの目標は“怪我なく事故なくそこそこ楽しく”。よって火は極力使わない。段差をなくし、お年よりや小さな子供の安全に配慮をし、お店は整理整頓するよう指導、配置もわかりやすい。お祭りにつき物のテキヤは入れず、町内会のみでお店を出す。ただし例年と変化をつけるため、ゲームセンターに協力をあおり、プリクラを設置する。

「あんまりわくわくしないわねえ。」

 古藤さんがぶつぶつ言いながら現れる。

「こ、古藤さん、聞こえますって。」

吉川は焦る。安部の無言の怒りが背中から伝わってくる。欝の小川は

「ごちゃごちゃしていると気が滅入ってくるからこれぐらいがいいです。まるで僕の部屋みたいだ。片付ける気力がなくて…。」

…それはフォローになっているのだろうか、と、古藤と吉川は顔を見合わせる。

「おお、吉川君、すまない、道を広げるためすこし屋台をずらしたいのだ。力を貸してあげておくれ。古藤さんは小石を拾って子供が走り回っても怪我をしないように。」

山田課長が指示してくれたおかげで場の雰囲気が変わる。皆ほっとして準備を開始した。

お祭り中はトラブルが起きないように持ち場を離れられない。業務なので楽しむ余裕はない。といっても、綿飴をなめている子供や孫のシャテキをうれしそうにながめているおじいさんをみて、なんとなく心がなごむ。さらに、例の募金集団に仕事を割り振った。社会復帰の訓練として、お祭りの誘導係のバイトをさせることになった。

「大丈夫ですかねえ。」

吉川は不安そうだ。同じ配置の井上は励ます。

「大丈夫、なるようになる!」

「井上さんは気楽だなあ…。」

吉川は不安そうだ。だが段々とお祭り全体をやさしい空気が包んでいった。ゲーセンでスリルを味わっている若者も、たまにはこういうのもいいか、と穏やかな空気を感じ取り、恒例の乱闘騒ぎ(神社の階段で女子をもめて頻発する。)も今年はなかった。町内会というより子ども会のような雰囲気でお祭りは特にトラブルもなく終わりを迎えた。

翌朝、アンケートを集計していると意外にも評判がよかった。毒のない出し物は子供家族連れ、そして実は有暇人口の多数を占めている老人の出足を広げた。更に例の募金集団はお年よりに感謝された事に感動し、介護の道に進もうという人が数名出てきた。

「進路が決まってよかったですね。」

弱者を考慮したお祭りがいい方向にまとまったのだ。そうなのだ、どんな人でも結構使い勝手はあるのだ。

「それじゃあ、打ち上げといくか!」

阿部は威勢よく切り出す。

「でもアルコールは欝には…。」

小川がつぶやく。

「じゃあ、無印良品のレストランで食べようよ!」

古藤の提案で即決した。なんとも打ち上げにふさわしくないが、これでいいか。そういえば今日はノー残業デーだ。

さて、出るか、会社を。

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都庁安倍課 turtle @kameko1

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