第22話 辺境都市アザエタザと王


「ここが、人の住まう街……」


 人の背丈を優に越える壁に覆われた街。


「えぇ。そこの貴族様が納めている首都です」

「にゃー。なんでぼくがこんなところにいなきゃいけないの?」


 ディレンが首肯し、ライムが機嫌悪そうに鼻を鳴らした。

 ディレンからすれば故郷だが、ライムからすれば敵地のど真ん中だ。王が行く、という理由で付き添ってきたライムにとって、最悪の場所ともいえる。


「くそっ。お前たち、すぐにでも兵を呼んで……」

「止めときましょうや。俺たちじゃあ、どうしたって王様に敵いませんよ」

「ふざけるなっこの裏切り者めっ! 誰が今まで面倒みてやったと思ってるんだ!!」

「見てもらった覚えはないんですけどねぇ。賃金は減らされる一方で、それどころか目の前で食べ物を踏み躙られたりもしたわけだが……」


 私がライムの機嫌を取っている間、場所の中で貴族様の喚き声が聞こえてきた。……あぁ、そんなに怒らないでくれ。わかってる。わかってるさ、もうすぐ彼ともお別れだ。


 貴族様の声が聞こえてくる度に機嫌の悪くなるライム。

 困ったものだ……。


「では、準備に入ろうか。――ディレン!」

「なんですか?」

「私はこの都市に存在する神素を正常なものとする。その間に、ラビスたちを街中に置いてきてくれ」

「きゅう!」

「え、と。いいんで?」

「あぁ、彼らも役目を全うするために生まれたのだ。これは決められた別れだよ」


 悲しげに鳴くラビスたち。旅に出た子供たちは元気だろうか……。


「わかりました」

「ライムも連れて行ってくれ」

「なんで!? 嫌だよ! ぼくは王様の近くにいるんだ!」

 

 私の肩から飛び降り、必死に首を横に振る。

 だが、駄目だ。私はしばらく動けなくなる。その間、ライムを守ってもらうにはディレンが最適なのだ。


「理解してくれ、ライム」

「にゃー……」


 渋々といった風に頷く。


「旦那、一応いっておきますけど……神素を正常にするってことは、この街では魔法が使えなくなるってことですよ? いいんですね?」


 確認してくるディレン。旅の途中で神素を正しく認識できるようになったディレンにはわかった。わかってしまった。

 神素を正常にするとは即ち――神素を0に戻し、魔法などという歪な存在を介在できなくする、というものだ。


 そんなことをすれば、間違いなくこの街は荒れる。

 魔法によって支えられているのだ。最悪、多くの犠牲がでる。


「わかっているさ。だが、誰かが業を背負わね世界は滅んでしまう。ならば、王としてやらなければならない」

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王と未来世界 くると @kurut

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