第21話 貴族と王

「――なぜだ、なぜこんなことになってしまったのか……」


 カタンカタンと揺れる馬車の中で、貴族様は頭を抱えながら呟いた。


「フシャーッ。人間なんか殺しちゃうべきだよ!」

「ライム、ライム頼むから落ちていてくれ」


 ライムが馬車の中に首を突っ込んで威嚇している。

 ディレンが必死に宥めようとしているが、逆効果にしかなっていない。ライムの顔が怒りと失望に染まった。


「やっぱり、ディレンも人間のままなんだね……」

「違う。あ、いや人間ではあるんだけど―― 」


 慌てて弁解するが効果なく、どんどん泥沼にはまっていく。このまま放っておくのもおもしろいのだが、あまり苛めてやるのも可哀想だ。助け舟をだしてやろう。


「ライム、落ち着いて聞くんだ。貴族様とやらには聞きたいことがだくさんあるんだ、ここで死なせてやるわけにいかないのだ」

「……そうなのですか、王さま?」

「あぁ、私が保証しよう。それに、ディレンはもう人間ではないよ」


 「え」3人の声が重なった。馬車の中にいる貴族様でさえ驚いている。本人であるディレンも驚いているのだ。そのことにライムも驚いている。


「き、貴様? 人の部下に何をしたというのだ!?」

「お、俺って人じゃなくなっちまったの?」

「にゃにゃー、人間から神素の生み出せる人間になったわけではないの……」

「君たち、動揺しすぎ。そこまで根本的に変わったわけではないよ。基本は人間と同じさ」


 未だ疑わしそうにこちらを見てくる。本当のことを言っているのだが、信じてくれないな。


「ま、まあ今はいい。そんなことよりも――貴様らは人の馬車でどこに行こうってんだ?」


 眉間に青筋浮かべてこちらを睨む。どうやら、まだ寝たりないようだ。


「まてっ! その不穏な空気をやめろっまた俺を眠らせるつもりか! この妖術使いめ!」

「………」


 個人的には、魔法の方がよほど妖術の類だと思うのだが、いや、知らない者に言っても詮無きことか。


「にゃー怒りました。ぼくは怒ってしまいました! なんですかその態度は! あなたを生かしてあげてるのが王様の優しさだって気付きもしないなんて! それどころか妖術だって? ふざけるなっ!」

「ひぃぃ」


 どことなく、幼いイメージがあったライムが怒っている。怒気を撒き散らし怒声を放つ。貴族様は震えあがっているよ。

 まぁ、言ってしまえば世界を生んだ相手にまがい物呼ばわりすればねぇ、そのうえ神法を妖術呼ばわりときた。

 この世界の住人であれば、怒って当然とも言えることだ。むしろ、頭が痛くなるのは、この世界の住人が神法を妖術と認識してしまえるだけの土壌が育ってしまっていることだ。


 さてはて、どうやってその常識を崩していったモノか……。

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